【クロップ機能の完全攻略】フルサイズ機を1.5倍望遠にする「魔法のボタン」|画質・画素数・ボケへの影響を徹底検証

カメラ

「持っている望遠レンズ(200mm)じゃ、野鳥には全然届かない」
「フルサイズ機を買ったけど、手持ちのAPS-C用レンズも捨てがたい」
「単焦点レンズ一本で勝負したいけど、画角のバリエーションが欲しい」

カメラには、レンズを交換しなくても焦点距離を瞬時に1.5倍(または1.6倍)に伸ばせる「クロップ機能(APS-Cモード)」という隠しコマンドのような機能が搭載されています。

結論から言うと、クロップ機能とは「センサーの中央部分だけを贅沢に切り出して使う機能」です。
これを使えば、ボタン一つで50mmレンズが75mmの中望遠レンズに早変わりし、200mmレンズは300mmの超望遠レンズへと変貌します。

しかし、「画素数が減る」「画質が落ちるのでは?」という不安から、食わず嫌いをしているユーザーも少なくありません。
実は、クロップ機能は単なるトリミングではありません。AFエリアの拡大、連写バッファの増大、そして動画撮影におけるローリングシャッター歪みの低減など、物理的な恩恵が多数ある「プロ御用達の機能」なのです。

この記事では、クロップ機能の光学的な仕組みから、メリット・デメリット、画素数の計算式、ボケ味の変化、そして各社(ソニー・キヤノン・ニコン)の設定方法まで、全角1万文字を超えるボリュームで徹底的に解説します。

これを読み終える頃には、あなたはカメラの「Cボタン(カスタムボタン)」にクロップ機能を割り当てずにはいられなくなるはずです。

目次

第1章:クロップ機能(APS-Cモード)の正体|センサーを「切り取る」とは?

カメラ

まず、クロップ機能が物理的に何を行っているのか、そのメカニズムを正しく理解しましょう。

1-1. フルサイズとAPS-Cのセンサーサイズ比

デジタル一眼カメラのセンサーサイズには、主に2つの規格があります。

  • フルサイズ(Full Frame):約36mm × 24mm。昔のフィルムと同じ大きさ。
  • APS-C(Advanced Photo System type-C):約23.6mm × 15.8mm。フルサイズを一回り小さくした大きさ。

フルサイズ機のイメージセンサーは大きいですが、クロップ機能(APS-Cモード)をONにすると、センサー全体を使うのをやめ、中央にある「APS-Cサイズ相当の長方形エリア」だけを使って光を記録します。
周囲の「使わなかった部分」は黒く塗りつぶされるか、最初から記録されません。

1-2. なぜ「1.5倍」の望遠になるのか?

「センサーを切り取っただけなのに、なぜ望遠になるの?」と疑問に思うかもしれません。
これは「画角(写る範囲)」が狭くなるからです。

🎓 穴の空いた厚紙で考える
目の前に厚紙を持ってきて、真ん中に長方形の穴を開けて覗いてみてください。
風景の全体は見えなくなり、一部だけが切り取られて見えますよね。
その「切り取られた一部」を、パソコンの画面いっぱいに引き伸ばして表示したらどうなるでしょうか?
結果として、遠くのものをズームアップして撮ったのと同じ写真になります。これがクロップによる望遠効果の正体です。

この倍率(クロップファクター)はメーカーによって微妙に異なります。

  • SONY / Nikon / PENTAX / FUJIFILM:1.5倍
  • Canon:1.6倍

つまり、ソニー機で50mmレンズを使ってクロップすると「50 × 1.5 = 75mm」相当の画角になります。
キヤノン機なら「50 × 1.6 = 80mm」相当になります。

第2章:クロップ機能を使う7つのメリット

「後でパソコンでトリミングするのと何が違うの?」
これは最も多い質問です。実は、撮影時にカメラ内でクロップすることには、後処理にはない絶大なメリットがあります。

メリット1:擬似的なテレコンバーター(焦点距離の延長)

レンズ交換なしで、一瞬で焦点距離を変えられます。
70-200mm F2.8のレンズを使っている時、「あと少し寄りたい!」と思っても、レンズ交換している間に鳥は逃げてしまいます。
ボタン一つで300mm相当(200mm × 1.5)まで寄れる機動力は、野生動物やスポーツ撮影において最強の武器です。

メリット2:F値(明るさ)が変わらない

これが最強のメリットです。
通常、焦点距離を伸ばすために物理的な「テレコンバーター(×1.4や×2.0)」をレンズとカメラの間に挟むと、副作用としてF値が暗くなります(1段〜2段分)。
しかし、クロップ機能はセンサーの使い方を変えるだけなので、レンズのF値はそのままです。
「F2.8のまま、焦点距離だけ1.5倍にできる」
これは暗い体育館でのスポーツ撮影などで、シャッタースピードを稼ぎたい時に決定的な差となります。

メリット3:AFエリアが画面いっぱいに広がる

一眼レフ時代からの大きな利点です。
フルサイズ機でクロップすると、ファインダー(または背面液晶)の像が拡大表示されます。
それに伴い、AFポイント(測距点)が画面の端(フレームのギリギリ)までカバーできるようになります。
構図の隅っこに鳥の瞳を置きたい時など、AFの自由度が劇的に向上します。

メリット4:連写バッファの解放と書き込み速度向上

クロップすると、当然ながら記録する画素数(データ量)が減ります。
フルサイズ(2400万画素)なら約24MBのデータ量ですが、APS-Cクロップ(約1000万画素)ならデータ量は半分以下になります。
その結果、カメラのバッファメモリ(一時保存場所)がいっぱいになりにくくなり、連写できる枚数(連続撮影可能枚数)が増えたり、バッファ詰まりからの回復が早くなったりします。
決定的瞬間を逃さないための「高速化チューニング」としても使えます。

メリット5:測光精度とAEの安定化

画面内に「極端に明るい太陽」や「極端に暗い影」がある場合、フルサイズだとそれに引っ張られて露出が暴れることがあります。
クロップすることで、主題(被写体)だけを画面いっぱいに捉えることができ、カメラの測光(明るさ判断)が被写体中心になり、露出が安定しやすくなります。

また、構図を決める際も、液晶画面いっぱいに被写体が表示されるため、ピントの山(合焦しているかどうか)が見やすくなり、歩留まりが向上します。

メリット6:APS-C専用レンズが使える

フルサイズ機に移行したばかりのユーザーにとって、手元に残ったAPS-C用の軽量レンズ資産は悩みの種です。
しかし、クロップモードを使えば、これらのレンズをケラレ(周辺の黒い影)なしで使用できます。
「今日は本気撮影だからフルサイズレンズ」「今日は散歩だから軽いAPS-Cレンズ」という使い分けが、一台のボディで完結します。

メリット7:動画撮影時のローリングシャッター歪み低減

動画(特に4K)撮影時、フルサイズ全画素読み出しだと、センサーのスキャンに時間がかかり、動く被写体が斜めに歪む「コンニャク現象(ローリングシャッター歪み)」が出やすい機種があります。
あえてAPS-Cクロップ(Super 35mmモード)で撮ることで、読み出す画素数が減り、スキャン速度が向上するため、歪みが劇的に減ることがあります。
また、4K 60pなどの高フレームレート撮影は、機種によってはクロップ時にしか選べないこともあります。

第3章:クロップ vs テレコンバーター|どっちが正解?

ISO

焦点距離を伸ばす手段として、古くからある「テレコンバーター(エクステンダー)」と、現代の「クロップ機能」。
どちらを使うべきか迷うシーンが多いですが、それぞれ明確な得意・不得意があります。

3-1. テレコンバーター(×1.4 / ×2.0)の仕組みと弱点

テレコンバーターは、レンズとボディの間に装着する補正レンズ群です。
光学的に像を拡大するため、画素数は減りません(2400万画素なら2400万画素のまま記録されます)。
しかし、以下の強烈なデメリットがあります。

  • F値が暗くなる:×1.4テレコンなら1段分(F2.8→F4)、×2.0テレコンなら2段分(F2.8→F5.6)暗くなります。
  • AF速度・精度の低下:暗くなるため、AFセンサーに届く光が減り、ピント合わせが遅くなったり、迷ったりします。F11以下になると像面位相差AFが効かなくなる機種もあります。
  • 画質の劣化:レンズの枚数が増えるため、どうしても解像度が落ち、収差(色ズレ)が増えます。特に「マスターレンズ(元のレンズ)」が高性能でないと、画質の劣化が顕著に出ます。

3-2. クロップ機能の勝利点

一方、クロップ機能は「センサーの中央を使うだけ」なので、レンズの光学性能には一切干渉しません。

  • F値はそのまま:F2.8はF2.8のまま使えます。シャッタースピードを落とさずに済みます。
  • 画質劣化なし:レンズの中央(最も解像度が高い部分)だけを使うため、むしろ四隅の甘い描写や周辺減光がカットされ、画面全体がキリッとシャープになります。
  • AF性能維持:明るさが変わらないため、AFも爆速のままです。

3-3. 結論:画素数が許すなら「クロップ」推奨

「画素数が減るのが嫌だ」という理由だけでテレコンを使うのはナンセンスです。
テレコンを使ってF値が暗くなり、ISO感度を上げてノイズまみれになった2400万画素の画像より、
クロップしてF値明るいまま、低ISOで撮った1000万画素の画像の方が、結果的に高画質であることが多々あるからです。

⚔️ 比較まとめ表

項目 テレコンバーター(×1.4) クロップ(×1.5)
焦点距離 1.4倍 1.5倍
F値(明るさ) 1段暗くなる 変わらない(明るいまま)
画素数 変わらない 約半分になる
AF速度 低下する 変わらない
コスト 5〜8万円かかる 0円

第4章:クロップのデメリットと画素数の計算式

もちろん、魔法ではありません。代償(トレードオフ)も存在します。
最大のデメリットは「画素数の大幅な低下」です。

4-1. 画素数は「約2.3分の1」になる

クロップすると、面積比で言うと半分以下になります。
計算式は以下の通りです。

🧮 クロップ後の画素数計算
元の画素数 ÷ (クロップ倍率の2乗)例:ソニー(1.5倍)の場合
1.5 × 1.5 = 2.25
元の画素数 ÷ 2.25 = クロップ後の画素数

4-2. 主要機種のクロップ後画素数一覧表

あなたのカメラでクロップすると何万画素残るのか、目安を確認しましょう。

元の画素数(フルサイズ) クロップ後(1.5倍) クロップ後(1.6倍) 用途の限界目安
6100万画素
(α7R Vなど)
約2600万画素 A3ノビ印刷まで余裕。常用可能。
4500万画素
(Z9, EOS R5など)
約2000万画素 約1700万画素 A4印刷まで余裕。十分高画質。
3300万画素
(α7 IVなど)
約1400万画素 A4印刷、4Kモニタ鑑賞OK。
2400万画素
(α7 III, R6 IIなど)
約1000万画素 約930万画素 2L判印刷、SNS、ブログ用なら十分。大伸ばしは厳しい。
1200万画素
(α7S IIIなど)
約500万画素 フルHD動画、スマホ閲覧専用。トリミング耐性はゼロ。

ここから分かる通り、「高画素機(4000万画素〜)」こそが、クロップ機能の真価を発揮できるカメラだと言えます。
α7R Vなどの6100万画素機を使えば、クロップしても2600万画素も残ります。これは一般的なフルサイズ機の画素数(2400万)以上です。
つまり、「普段は超高画素機、ボタン一つで画質劣化のない高速連写APS-C機」として、一台二役を完璧にこなせるのです。

4-3. ボケ量はどう変わる?(被写界深度の変化)

F値は変わりませんが、「ボケの見た目」は変わります。
同じ位置から撮影してクロップした場合、画角が狭くなる(望遠になる)ため、背景の圧縮効果が高まったように見えます。

しかし、「フルサイズで85mm F1.8を使って撮った写真」と、「フルサイズで50mm F1.8を使ってクロップ(75mm相当)した写真」を比べると、クロップした方がボケ量は少なくなります。

だいたい「1段分」ボケにくくなると考えてください。
APS-CクロップでのF1.8のボケ感は、フルサイズ換算で「F2.8」程度の深度に相当します。

  • フルサイズ F1.8 = とろとろにボケる
  • APS-Cクロップ F1.8 ≒ フルサイズ F2.8相当のボケ感

「ボケを最大化したいポートレート」などではクロップせず、物理的に望遠レンズを使ったほうが有利です。

4-4. 【重要】何万画素あれば足りるのか?(印刷・鑑賞サイズ別)

「画素数が半分になる」と聞くと絶望的に聞こえますが、実際の用途で必要な画素数は意外と少ないものです。

🖨️ 用途別・必要画素数の目安

  • スマホ・SNS(Instagram/X):約200万画素(長辺1920pxあれば十分)
  • 4Kモニターでの全画面鑑賞:約800万画素(3840×2160)
  • A4サイズ印刷(300dpi):約900万画素
  • A3サイズ印刷(300dpi):約1700万画素
  • A2ポスター印刷(200dpi):約1600万画素

この表を見れば分かる通り、1000万画素(2400万画素機のクロップ)あれば、A4印刷までは余裕で対応できます。
4Kモニターで鑑賞する場合でも十分な解像度があります。
つまり、「個展を開いてA2以上の巨大プリントを展示する」というプロ写真家でない限り、クロップによる画素数低下は実用上ほとんど問題にならないのです。

第5章:デジタルズーム・全画素超解像ズームとの違い

初心者の方がよく混乱するのが「デジタルズーム」との違いです。

機能名 処理内容 画質の変化 RAW記録
クロップ
(APS-Cモード)
センサー中央を使うだけ。
リサイズ(引き伸ばし)はしない。
画質劣化なし。
画素数は減る。
可能
デジタルズーム 中央を切り抜き、
無理やり元の画素数まで引き伸ばす。
画質劣化あり
ぼやける、ジャギーが出る。
不可(JPEGのみ)
全画素超解像ズーム
(ソニー独自)
データベース型超解像処理。
AI的にディテールを補間して拡大。
劣化は少ないが、
輪郭が不自然になることも。
不可(JPEGのみ)

重要なのは、クロップだけが「RAW記録」が可能だという点です。
デジタルズームや超解像ズームは、カメラ内で加工処理を行ってしまうため、JPEGでしか保存できません。
後からLightroomなどで本格的に現像したい場合は、迷わずクロップ機能を使ってください。

第6章:メーカー別・クロップ機能の設定と呼び出し方

この機能は、メニューの奥深くに眠らせておくにはもったいなさすぎます。
必ず「カスタムボタン(C1, C2など)」に割り当てて、ワンタッチで呼び出せるようにしましょう。

SONY(αシリーズ)

  • 名称:APS-C S35(Super 35mm)記録
  • 設定場所:撮影メニュー > 画質 > APS-C S35撮影
  • おすすめ設定:「カスタムキー設定」で、レンズ鏡筒の近くにあるボタンや、ゴミ箱ボタン(C4)などに割り当てるのが定番です。ファインダーを覗いたまま親指や薬指で切り替えられます。

Canon(EOS Rシリーズ)

  • 名称:1.6倍(クロップ)
  • 設定場所:撮影メニュー1 > 記録画質 / クロップ / アスペクト
  • おすすめ設定:M-Fnボタンや、十字キーの一部に割り当てるとスムーズです。

Nikon(Zシリーズ)

  • 名称:撮像範囲設定(DX)
  • 設定場所:静止画撮影メニュー > 撮像範囲設定
  • おすすめ設定:iメニュー(ショートカット)の一番押しやすい場所に登録しておくか、Fn1/Fn2ボタンに割り当てます。

第7章:焦点距離別・クロップ換算早見表

カメラ

手持ちのレンズが何mmに変身するのか、よく使う焦点距離をまとめました。

レンズ表記(フルサイズ) 1.5倍クロップ(Sony/Nikon) 1.6倍クロップ(Canon) 用途イメージ
24mm (広角) 36mm 38mm 広角から、使いやすい準広角スナップへ。
35mm (準広角) 52mm 56mm スナップ画角から、標準画角(50mm)へ。最強のコンビ。
50mm (標準) 75mm 80mm 標準から、ポートレートに最適な中望遠へ。
85mm (中望遠) 127mm 136mm ポートレートから、圧縮効果の強い望遠へ。
70-200mm (望遠ズーム) 105-300mm 112-320mm 運動会や動物園で「あと一歩」を実現。
100-400mm (超望遠) 150-600mm 160-640mm 野鳥撮影の標準域へ。バズーカレンズ不要。

第8章:こんなシーンで輝く!プロのクロップ活用術

実際にプロのフォトグラファーは、どのような場面であえてクロップを使っているのでしょうか。

シーン1:単焦点レンズ一本縛りのスナップ

35mm F1.4などの高級単焦点レンズを一本だけつけて街に出ます。
基本は35mmの広い画角で風景を撮り、気になる被写体(看板や猫)を見つけたら、ボタン一発で52mm相当にクロップ。
足で寄れない場所や、パース(遠近感)を消したい時に重宝します。
「レンズ交換をしている間にシャッターチャンスは去る」という真理に対し、クロップは「0秒でレンズ交換する」ソリューションです。

シーン2:マクロ撮影(疑似スーパーマクロ)

マクロレンズを使って花や昆虫を撮る際、「最短撮影距離(これ以上寄れない距離)」の限界にぶつかることがあります。
そんな時、その位置から動かずにクロップボタンを押します。
すると、画面内の被写体が1.5倍に拡大されます。最短撮影距離はそのままで、被写体をより大きく写すことができるため、実質的に「撮影倍率が1.5倍になった」のと同じ効果が得られます。
等倍マクロレンズが、1.5倍マクロレンズに進化する瞬間です。

シーン3:スタジアムやサーキットでのスポーツ撮影

スポーツ撮影では、400mmや600mmといった超望遠レンズが必要ですが、これらは数百万円もします。
70-200mm F2.8などの「手の届くズームレンズ」にクロップ機能を組み合わせることで、300mm F2.8相当の画角を手に入れることができます。
しかも、データ量が軽くなるので連写が止まりにくくなり、決定的なゴールシーンを逃すリスクも減ります。

シーン4:動画撮影(4K 60pとローリングシャッター対策)

動画クリエイターにとって、クロップは「画質を救う」ための必須機能です。
多くのフルサイズカメラは、4K 60pの高フレームレート撮影時に、データ処理が追いつかず強制的にクロップ(1.5倍)される仕様になっています。
「強制クロップは嫌だ」と思うかもしれませんが、実はメリットもあります。
読み出す面積が狭くなることで、センサーの走査速度(スキャン速度)が相対的に速くなり、動く被写体が斜めに歪む「こんにゃく現象(ローリングシャッター歪み)」が大幅に軽減されるのです。
激しい動きのあるシーンでは、あえてSuper 35mmモード(クロップ)を選ぶのがプロの定石です。

シーン5:ポートレートでの「前ボケ」作り

50mm F1.2などの極薄ピントのレンズを使っている時、クロップして75mm相当にすることで、被写体との距離(ワーキングディスタンス)を変えずに画角を整理できます。
特に、手前にある花や葉っぱを大きく前ボケとして入れたい場合、クロップすることで前ボケのサイズ感が変わり、画面構成のバリエーションが一瞬で増えます。

シーン6:月や飛行機の撮影

被写体が小さく、必ずトリミングすることが前提の撮影ジャンルです。
後でトリミングするのと画質は変わりませんが、撮影時にクロップしておくと、AFポイントが画面全体に広がるため、不規則に動く飛行機などをトラッキング(追尾)しやすくなります。
また、ファイルサイズが小さくなるため、PCへの取り込みや現像処理の時間が短縮できるという「時短メリット」も地味ながら強力です。

第9章:クロップ機能に関するよくある質問(FAQ)全25問

Q1. 画質は本当に劣化しませんか?

A. 「画素数の低下」以外の劣化はありません。
デジタルズームのようなノイズやモヤつきは発生しません。真ん中を綺麗にハサミで切り取ったのと同じです。

Q2. RAWデータも小さくなりますか?

A. はい、なります。
クロップされた範囲のデータしか記録されないため、ファイルサイズも軽くなります(例:50MB → 20MB)。SDカードやHDDの節約になります。

Q3. クロップすると画角だけでなく、パース(遠近感)も変わりますか?

A. 変わります(望遠効果が出ます)。
24mmでクロップして36mm相当にした写真と、本物の35mmレンズで撮った写真は、パースペクティブもほぼ同じになります。

Q4. ファインダーの中はどう見えますか?

A. 機種によります。
ミラーレス(EVF)の場合は、拡大されて画面いっぱいに表示されるので非常に快適です。一眼レフ(OVF)の場合は、視野枠の中に「黒い枠」が表示されたり、周りが暗くなったりして、クロップ範囲を示してくれます。

Q5. クロップして1000万画素になってしまいました。画質悪いですか?

A. 用途によります。
4Kモニター(約800万画素)で全画面表示してもお釣りが来る画素数です。SNSならオーバースペックなくらいです。ポスター印刷などをしない限り、現代の1000万画素は非常に高画質です。

Q6. F1.8のレンズは、クロップするとF2.8くらい暗くなりますか?

A. いいえ、明るさ(露出)としてのF値はF1.8のままです。
シャッタースピードを稼げるという点で、テレコンバーターより優秀です。ただし、ボケの量はF2.8相当に減ります。

Q7. クロップを解除し忘れて撮影してしまいました。後から戻せますか?

A. 残念ながら戻せません。
クロップ範囲外のデータは記録されていないため、復旧不可能です。撮影前後の確認を習慣づけましょう。

Q8. 動画でもクロップは使えますか?

A. 多くの機種で使えます(Super 35mmモード)。
画質の劣化が少なく、望遠効果が得られるため、プロの現場でも多用されます。4K動画なら画素数が800万あれば足りるため、静止画ほど画素数低下を気にする必要がありません。

Q9. クロップしても周辺減光(ヴィネット)はそのままですか?

A. いいえ、消えます。
レンズの「一番美味しい中央部分」だけを使うため、周辺減光や周辺の解像度低下といったレンズの欠点がカットされ、画面全体がクリアになるというメリットがあります。

Q10. 高感度ノイズへの影響はありますか?

A. 等倍で見れば変わりませんが、全体で見ると目立つ可能性があります。
フルサイズ画像を縮小して見る(リサイズ効果によるノイズ低減)恩恵が受けられなくなるため、同じサイズで鑑賞した場合、クロップした画像の方がノイズが少し粒子っぽく見えることがあります。

Q11. APS-C機でクロップ機能はありますか?

A. 一部の上位機種には「1.3倍クロップ」などがあります。
ただし、元々の画素数が少ないため、さらに減ってしまう点に注意が必要です。

Q12. Lightroomで後からトリミングするのと、画質の差はありますか?

A. 画質(ドット単位の情報)は全く同じです。
違いは「撮影時のテンション」と「AFエリアの広さ」と「ファイルサイズ」です。

Q13. オールドレンズを使う時にメリットはありますか?

A. 絶大です。
シネレンズ(映画用レンズ)など、イメージサークルの小さいレンズをフルサイズ機でケラレなく使うための唯一の方法です。

Q14. クロップ中は手ブレ補正の効きはどうなりますか?

A. 焦点距離に合わせて最適化されます。
カメラは「今、焦点距離が何mm相当か」を認識して補正するため、望遠になっても適切に手ブレ補正が効きます。

Q15. 結局、クロップは邪道ですか?

A. 全く邪道ではありません。合理的なテクニックです。
最新のプロ機(α1やZ9)が高画素化しているのは、「トリミング(クロップ)耐性を上げるため」でもあります。使える機能は使い倒すのがプロのやり方です。

Q16. 測光モードは変えた方がいいですか?

A. 基本的には「マルチ測光(評価測光)」のままで大丈夫です。
しかし、画面全体に占める被写体の割合が変わるため、露出の出方が変わる場合があります。ヒストグラムを確認しながら露出補正で微調整してください。

Q17. レンズの歪曲収差補正は効きますか?

A. はい、効きます。
カメラ内補正もLightroomのプロファイル補正も、クロップ後の画像に対して適切に適用されます。

Q18. 月を大きく撮りたいのですが、クロップで足りますか?

A. まだ足りないことが多いです。
600mmレンズでクロップ(900mm相当)すれば、画面いっぱいの迫力ある月が撮れます。

Q19. バッテリーの持ちは良くなりますか?

A. 処理負荷が減るので、わずかに良くなる傾向があります。
特に4K動画撮影時などは、発熱も抑えられ、長時間録画が可能になる場合があります。

Q20. クロップモードでストロボは使えますか?

A. 全く問題なく使えます。
シンクロ同調速度(1/250秒など)も変わりません。光量落ち(ケラレ)も心配不要です。

Q21. 回折現象(小絞りボケ)の影響は?

A. 画素ピッチは変わらないので、物理的な回折限界は同じです。
しかし、画像を拡大して見ることになるため、理論上は同じF値でも回折の影響が目立ちやすくなります。F11まで絞るならF8で止めるなど、少し開け気味にするのがコツです。

Q22. おすすめのSDカードは?

A. 画素数が減るので、V60などの安価なカードでも十分です。
ただし、連写枚数が増えるので、結局は書き込みの速いカードが快適です。

Q23. RAW現像ソフトでクロップを解除できますか?

A. 原則できません。
多くのメーカーのRAWデータは、クロップ範囲外の情報を捨てて保存されています。ただし、一部の現像ソフトでは「クロップモードで撮影したRAW」の中に、実は全画素データが残っている(メタデータで隠されているだけ)ケースもあり、復活できる場合もありますが、期待しない方が良いです。

Q24. スマホで見るならクロップ画像でも十分ですか?

A. 十二分です。
iPhoneの画面は約200万〜300万画素です。1000万画素あれば、拡大しても粗は見えません。

Q25. プロはなぜ高画素機を買うのですか?

A. 「トリミング耐性」のためです。
6100万画素あれば、半分にトリミングしても3000万画素残ります。撮影時は広めに撮って構図に余裕を持たせ、後から最高の構図を作る。これが現代のスタンダードです。

Q26. ファインダー(EVF)は暗くなりますか?

A. なりません。明るさは維持されます。
ただし、画質(解像度)は少し粗く見える場合があります。光学ファインダー(一眼レフ)の場合は、視野枠が狭くなるだけです。

Q27. サードパーティ製レンズでもクロップは使えますか?

A. はい、シグマやタムロンでも問題なく使えます。
レンズ情報が正しく伝達されていれば、カメラ側で自動的に最適化されます。

Q28. APS-Cレンズをつけると勝手にクロップされますか?

A. 多くの機種で「Auto」設定なら自動でクロップされます。
逆に、あえて「クロップしない」設定にして、円形のイメージサークル(ケラレ)を活かしたアーティスティックな写真を撮ることも可能です。

☕️ 写真雑学:なぜ「APS-C」と呼ぶのか?

「APS」とは、1996年に登場したフィルムの新規格「Advanced Photo System(アドバンストフォトシステム)」の略です。
当時、このフィルムには3つの撮影モードがありました。

  • APS-H (High definition):16:9のワイド画角(今のテレビと同じ)。
  • APS-C (Classic):3:2の従来比率(今のAPS-Cセンサーと同じ)。
  • APS-P (Panorama):上下を大きくカットしたパノラマ画角。

フィルム自体は同じ幅(24mm)でしたが、撮影時に磁気情報でトリミング指定をしていました。
デジタルカメラの黎明期、フルサイズ(35mm判)のセンサーを作るのは技術的に困難でコストも高すぎたため、この「APS-Cサイズ」のセンサーが量産され、普及しました。
つまり、私たちが今使っている「クロップ機能」は、25年以上前のフィルム規格の名残なのです。

まとめ|センサーを使い切るための「引き算」の美学

クロップ機能は、センサーの面積を捨てる「引き算」の機能です。
しかし、その引き算によって、望遠効果、AF性能、連写速度、そしてレンズの機動力という、多くの「足し算」を得ることができます。

「せっかくのフルサイズだから、隅まで使わないともったいない」
という貧乏性な考えは捨てましょう。

4000万画素、6000万画素というリッチなセンサーを搭載したカメラを持っているなら、その余力を「望遠」というパワーに変換できるクロップ機能を使わない手はありません。
カスタムボタンに登録したその日から、あなたの撮影スタイルは劇的に軽快になるはずです。

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この記事を書いた人

写真の教科書 編集部では、
カメラ初心者から中級者の方に向けて、
設定・用語・撮影の考え方をわかりやすく整理しています。

「感覚」や「経験」ではなく、
理屈から理解できる解説を大切にしています。

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