【ISO感度の完全教科書】画質劣化の仕組みからデュアルネイティブISO、ノイズレス撮影術まで|暗所撮影の限界突破ガイド

ISO

「夜景を撮るとざらざらしたノイズが出てしまう」
「暗い場所でも手ブレせずに撮りたい」
「ISO感度って結局いくつまで上げていいの?」

カメラを始めたばかりの方が最も悩み、そして時にはプロフェッショナルでさえも頭を悩ませるのが「ISO感度(イソかんど)」の設定です。F値やシャッタースピードが「物理的な光のコントロール」であるのに対し、ISO感度は「電気的な魔法」のような要素であり、その仕組みは見えにくいものです。

結論から申し上げますと、ISO感度は「画質という対価を支払って、時間を買う機能」です。感度を上げることで、本来なら三脚が必要な暗闇でも手持ち撮影が可能になり、目に見えない一瞬を切り取ることができます。しかし、そこには常に「ノイズ」という代償がつきまといます。

この記事では、ISO感度の基礎知識はもちろん、フィルム時代の歴史、センサー内部で50億個もの画素が光を受け取る仕組み、最新技術である「デュアルネイティブISO」、そしてプロが現場で実践している「ノイズを目立たせない高度な撮影・現像テクニック」まで、全角1万文字を超える超長編解説で徹底的に掘り下げます。

目次

第1章:ISO感度の正体|光を増幅する「魔法」の力

カメラ

まず、ISO感度とは何なのか、その定義と歴史的背景から紐解いていきましょう。

1-1. ISOの定義と読み方

「ISO」は、国際標準化機構(International Organization for Standardization)の略称です。カメラ用語としては、フィルムやデジタルカメラのセンサーが光を感じる能力(感度)の規格を指します。読み方は「アイエスオー(英語圏)」または「イソ(日本で一般的)」のどちらでも通じます。

1-2. フィルムカメラ時代の「ASA」と「DIN」

現在のISO規格は、かつて使われていたアメリカ規格の「ASA(アーサ)」と、ドイツ規格の「DIN(ディン)」を統合したものです。

  • ASA (American Standards Association):現在のISOと同じ等差数列(100, 200, 400…)。アメリカが主導。
  • DIN (Deutsches Institut für Normung):対数表記(21°, 24°, 27°…)。3増えると感度が2倍になる。ドイツが主導。

ベテランの写真愛好家が「感度400のフィルム」と言う場合、それはASA400のことを指しており、現在のデジタルカメラのISO 400と(露出的には)全く同じ意味を持ちます。

フィルムの場合、感度は「化学変化のスピード」でした。感度の高いフィルムには大きなハロゲン化銀(AgBr)の粒子が乳剤として塗られており、少ない光でも素早く化学反応を起こして像を作ることができました。その代わり、現像された写真には大きな粒子(粒状感)が残り、ザラザラとした質感になりました。

1-3. デジタルカメラにおける「電気信号の増幅」

デジタルカメラにおいて、ISO感度を変更することは、フィルムを交換することではありません。イメージセンサーから出力された電気信号を、アナログゲイン回路(AMP)で電気的に何倍にするかを決める設定です。

イメージしやすい例え話をしましょう。

🎓 マイクとスピーカーの例え
あなたは広い講演会場にいて、ステージ上の人がマイクに向かって話しています。

  • 光の量 = 話し手の声の大きさ
  • ISO感度 = スピーカーのボリューム(増幅率)

話し手が大声で話してくれれば(光が十分にあれば)、ボリュームを上げなくてもクリアに聞こえます。しかし、話し手がヒソヒソ声だった場合(暗い場所)、ボリュームを最大まで上げる必要があります。すると、声は聞こえるようになりますが、同時に「サーーッ」という会場の空調音やマイクの雑音まで大音量で聞こえてしまいます。
これが「ISO感度を上げるとノイズが増える」仕組みと全く同じです。

1-4. 基準感度(ベースISO)とは

すべてのデジタルカメラには、最も画質が良いとされる「基準感度(ベースISO)」が存在します。多くの機種ではISO 100ですが、一部のハイエンド機ではISO 64、または高感度特化機ではISO 800の場合もあります。

基準感度とは、センサーが受け取った光の信号を「増幅も減衰もさせずに、そのまま記録する(ゲイン0dB)」状態のことです。この状態が最もS/N比(信号対雑音比)が高く、ダイナミックレンジが広く、色再現性が正確です。基本的には、この基準感度で撮影することが高画質への最短ルートとなります。

第2章:ノイズ発生のメカニズム|なぜザラザラになるのか

ISO感度を上げると発生する「ノイズ」。その正体を物理的に理解することで、対策が見えてきます。

2-1. S/N比(Signal to Noise Ratio)の概念

画質を決定づける最も重要な指標が「S/N比」です。Signal(必要な映像信号)とNoise(不要な雑音信号)の比率を表します。

  • S/N比が高い:信号が多く、ノイズが少ない(クリアな画像)
  • S/N比が低い:信号が少なく、ノイズが目立つ(ザラザラな画像)

暗い場所での撮影は、そもそも入ってくる光(Signal)が極端に少ない状態です。その微弱な信号を無理やり増幅するため、相対的にノイズの割合が大きくなってしまうのです。

2-2. ノイズの3つの種類

デジタル画像に現れるノイズは、大きく分けて3つの原因があります。

① ショットノイズ(光子ショット雑音)

これが支配的です。光(フォトン)は粒子としての性質を持っており、センサーに到達するタイミングはポアソン分布に従ってランダムです。これを「光のゆらぎ」と呼びます。
光量が十分にある時はゆらぎは無視できますが(比率が小さい)、光量が少ない(暗い)時は、このランダムなばらつきが目立ち、ザラつきとして記録されます。これは物理法則上、絶対に避けられないノイズであり、センサーが高性能になっても(量子効率が100%になっても)改善されない宇宙の原理です。

② 読み出しノイズ(リードノイズ)

センサーから電気信号を取り出し、AD変換(アナログからデジタルへの変換)を行う回路自体が発生する電子的なノイズです。近年の裏面照射型CMOSセンサーなどの技術進化により劇的に減少していますが、ゼロにはなりません。

③ 固定パターンノイズ(熱ノイズなど)

センサーが熱を持つことで発生するノイズや、画素ごとの性能のばらつきによるノイズです。長時間露光時(星空撮影など)に、画面の同じ場所に赤い点や青い点として現れるのがこれです。特に夏場の長時間露光では、センサー温度の上昇により熱ノイズが顕著になります。

2-3. 輝度ノイズとカラーノイズ

写真に現れるノイズの見た目には2種類あります。

  • 輝度ノイズ(Luminance Noise):モノクロの粒状のざらつき。フィルムの粒子に似ており、ある程度なら「味」として許容されることもあります。ディテールを破壊しにくいのが特徴です。
  • カラーノイズ(Color Noise / Chroma Noise):本来無地の暗部に現れる、赤・緑・青の不自然な色斑点。これは非常に見苦しく、写真の品位を著しく損ないます。現代の現像ソフト(Lightroomなど)では、このカラーノイズを優先的に除去する処理がデフォルトで行われています。

第3章:画質劣化の具体例|ノイズだけではない副作用

「ノイズが増えるだけなら、あとでソフトで消せばいい」と思うかもしれません。しかし、高感度撮影には「失われたら戻らないもの」が他にもあります。

3-1. ダイナミックレンジの低下

ISO感度を上げると、センサーが扱える明暗の幅(ダイナミックレンジ)が狭くなります。

例えば、ISO 100では「真夏の直射日光」から「日陰の黒」まで14段分の輝度差を記録できたカメラでも、ISO 6400に上げると、その範囲が8段分程度まで狭まってしまうことがあります。
その結果、空がすぐに真っ白に白飛びしたり、影の中がすぐに真っ黒に塗りつぶされたりして、階調の豊かさが失われます。これを「飽和電子数の減少」と呼びます。

3-2. 色再現性の低下(彩度の低下)

高感度では、色の純度が下がります。鮮やかな赤がくすんだ茶色になったり、空の青がグレー混じりになったりします。これは信号に対するノイズの割合が増えることで、正確な色情報の分離(ベイヤー配列からのデモザイク処理)が困難になるためです。
夜景ポートレートなどで、ISO感度を上げすぎると肌色が土気色になってしまうのはこのためです。

3-3. 解像感の喪失(塗り絵現象)

最も深刻なのが解像感の低下です。これはカメラ内部の画像処理エンジン(JPEG生成時)が、「ノイズを消そうとして、本来のディテールまで消してしまう」ことによって起こります。
髪の毛の細かい一本一本や、猫の毛並み、遠くの木の葉などが、ベタッと塗りつぶされたような質感(通称:塗り絵、等高線)になってしまいます。スマホでの鑑賞では分かりにくいですが、拡大したりプリントしたりすると一目瞭然です。

第4章:適正ISO感度の決定プロセス|シーン別ガイド

では、現場でどうやってISO感度を決めればよいのでしょうか。プロの思考プロセスをフローチャート的に解説します。

4-1. 基本思考:露出の三角形における優先順位

ISO感度は、基本的に「最後の調整役」です。

  1. F値(絞り)を決める:表現したいボケ具合に合わせて設定。(例:ボカしたいからF1.8、全体を見せたいからF8)
  2. シャッタースピード(SS)を決める:被写体がブレない速度を確保。(例:走る子供なら1/500秒)
  3. ISO感度で明るさを合わせる:上記のF値とSSで暗い場合、適正露出になるまでISOを上げる。

この順番を間違えないことが重要です。「画質が心配だから」とISO 100に固定してしまい、結果的にSSが遅くなってブレた写真を量産する…これが初心者の陥る最大の罠です。

4-2. シーン別・推奨ISO設定値の目安

あくまで目安ですが、現代のフルサイズミラーレス機(2400万画素クラス)を想定した推奨値を記載します。APS-C機の場合は1段分、マイクロフォーサーズ機の場合は2段分程度、許容値を下げて考えてください。

シチュエーション 推奨ISO感度 設定の狙いとしきい値
晴天の屋外
(風景、ポートレート)
100 光量は十分。最高画質を得るためにベース感度を選択。NDフィルターが必要になる場合もある。
曇天・日陰
(スナップ、花)
400 〜 800 少し光が足りない。F8などに絞るとSSが遅くなるため、ISOを上げてSS1/125秒以上を確保する。
室内・レストラン
(静止物、料理)
1600 〜 3200 薄暗いカフェなど。手ブレ補正があるならISO 1600、なければ3200まで上げる覚悟が必要。
室内スポーツ・ペット
(動く被写体)
3200 〜 6400 最も過酷なシーン。SSを1/500秒以上に保つため、ISO 6400以上の使用も躊躇してはいけない。ブレるよりはマシ。
結婚式・イベント
(ストロボ不可)
1600 〜 6400 照明が変わるため「ISOオート」推奨。上限を6400程度にしておくと安心。
星空撮影・天の川
(三脚使用)
3200 〜 6400 三脚を使うが、地球の自転により星が動くため、SSを20秒程度にしたい。必然的に高感度になる。
夜景・工場夜景
(三脚使用)
100 被写体が動かないなら、SSを10秒、30秒とかけても問題ない。画質優先で最低感度を使う。

4-3. 拡張ISO感度(L / H)は使うべきか?

カメラの設定には、常用感度(例:100-51200)の外側に、「L(低拡張、ISO 50相当)」や「H(高拡張、ISO 102400相当)」がある場合があります。

  • L (Low):センサーの基準感度(ISO 100)で撮影し、デジタル演算で明るさを半分に減衰させたもの。白飛び耐性(ハイライトのダイナミックレンジ)が1段分低下するため、RAW現像には不向き。どうしてもSSを遅くしたい(滝を流したい等)場合で、NDフィルターがない時の緊急手段として使う。
  • H (High):単なる数字上の増幅。ノイズ量が爆発的に増え、カラーバランスも崩壊することが多い。記録用・証拠用としては使えるが、作品づくりには適さない。

4-4. ISO感度オートの「低速限界設定」を使いこなす

「ISOオート」は便利ですが、勝手にシャッタースピードを下げられてブレてしまうことがあります。これを防ぐために、多くの中級機以上のカメラには「ISOオート時の低速シャッター限界」という設定項目があります。

⚙️ 設定例:動く子供を撮る場合

  • ISO感度:オート(上限 6400)
  • 低速限界設定:1/500秒

こう設定しておくと、カメラは「ISO感度を上げてでも、絶対にシャッタースピードを1/500秒より遅くしない」という挙動をしてくれます。
逆に、暗すぎてISO 6400に達してもまだ露出が足りない場合のみ、1/500秒より遅くする(1/400秒、1/300秒…)という安全策が働きます。これを活用すれば、Mモードを使わなくても、Aモード(絞り優先)のままで失敗のない撮影が可能になります。ぜひ一度、お手持ちのカメラのメニューを探してみてください。

第5章:最新技術「ISO不変性」と「デュアルネイティブISO」

ここからは少しマニアックですが、最新のカメラを使う上で知っておくと画質が劇的に向上する知識です。

5-1. ISO不変性(ISO Invariance)とは

近年のソニー製センサーやニコン機などで採用されている特性です。
従来のカメラは「撮影時にアナログゲイン(ISO)を上げておかないと、後から明るくするとノイズだらけになる」ものでした。
しかし、ISO不変性を持つセンサーは、「ISO 100で暗く撮って、現像ソフトで5段分明るくする」のと、「現場でISO 3200まで上げて適正露出で撮る」のとで、ノイズ量や画質がほとんど変わらないという特性を持っています。

これを活用すると、「白飛びしないようにあえて暗く(低ISOで)撮っておき、後から暗部だけを持ち上げる」という高度なレタッチが可能になります。これはキヤノン機よりもソニー・ニコン機で顕著な特性です。

5-2. デュアルネイティブISO(Dual Native ISO)

パナソニックのGH5SやS1H、ソニーのα7S III、FX3などの動画向けハイエンド機に搭載されている革新的な回路技術です。
通常、ノイズは感度を上げるほど増えます。しかし、これらのカメラはセンサーの中に「低感度用回路(例:ISO 640)」と「高感度用回路(例:ISO 4000)」の2系統を持っています。

設定がISO 4000に達すると、回路が切り替わり、なんとISO 3200の時よりもISO 4000の方がノイズが少なくなるという逆転現象が起きます。これにより、超高感度域でも驚くほどクリーンな映像が得られます。夜景動画などで威力を発揮します。

第6章:動画撮影におけるISO感度とLog撮影

近年、VlogやYouTube用などに一眼カメラで動画を撮る人が増えました。動画におけるISO設定は、静止画とは全く異なるルールが存在します。

6-1. 動画だけ「Base ISO」が高くなる理由

「Log撮影(S-LogやV-Log)」を選択すると、ISOオートの下限が突然ISO 640やISO 800に跳ね上がることがあります。これはカメラの故障ではありません。

Log撮影は、センサーの持つダイナミックレンジを最大限(15stopなど)に引き出し、広い階調を記録するためのモードです。この「最大ダイナミックレンジ」を確保するためには、センサーが最も能力を発揮できる基準点(Base ISO)で撮らなければなりません。そのため、通常撮影ではISO 100が使えても、Log撮影では強制的にISO 800や640が最低感度になるのです。

6-2. 昼間の動画撮影にはNDフィルターが必須

静止画なら「シャッタースピードを1/4000秒」にすれば明るさを落とせますが、動画では「1/100秒」や「1/50秒」といった遅いシャッタースピードを維持しないと、パラパラ漫画のようにカクカクした不自然な映像(パラパラ感)になってしまいます。

「Logで撮りたいからISO 800固定」+「滑らかにしたいからSS 1/50秒固定」

この2つの条件を真昼の屋外で満たそうとすると、画面は真っ白になります。ここでF値を絞ると今度は「ボケ」が消えてしまいます。
そのため、動画クリエイターにとって「可変NDフィルター」は、レンズと同じくらい重要な必須アイテムとなるのです。

第7章:ノイズを極限まで減らす撮影・現像テクニック

機材の性能に頼るだけでなく、撮影者自身の工夫でノイズを減らすテクニックがあります。

7-1. 技術編:ETTR(Expose To The Right)のご提案

「右に寄せろ」という意味の露出テクニックです。ヒストグラムの山が右端(白飛び寸前)に来るように、あえて明るめに撮影します。
デジタルデータは、明るい部分に多くの情報量が割り当てられており、暗い部分は情報量が少ない(S/N比が悪い)という特性があります。
そのため、「高感度設定時は、少し明るめに撮って、現像時に暗く補正する」ほうが、「暗めに撮って、現像時に明るくする」よりも、最終的なノイズが少なくなります。特にシャドウ部の美しさに歴然の差が出ます。

7-2. 機材編:明るいレンズ(単焦点)を使う

根本的な解決策です。F2.8のズームレンズから、F1.4の単焦点レンズに変えるだけで、光の量は4倍になります。
これは、ISO 6400が必要だった場面で、ISO 1600で撮れることを意味します。ISO 6400と1600の画質の差は圧倒的です。暗所撮影が多いなら、高感度性能の良いボディを買う前に、明るいレンズへの投資を検討すべきです。

7-3. ソフトウェア編:AIノイズ除去の活用

2023年以降、写真業界の常識を覆したのが「AIを用いたノイズ除去」です。

  • Adobe Lightroom / Camera Raw:「AIノイズ除去」機能
  • DxO PureRAW:現像前のRAWデータに作用する強力なノイズ除去
  • Topaz DeNoise AI:定評のある専用ソフト

これらのソフトを使うと、ISO 12800や25600で撮影されたザラザラの写真が、まるでISO 400で撮ったかのようにツルツルになり、しかもディテール(まつ毛や布の質感)はしっかり残るという魔法のような結果が得られます。
「撮影時はノイズを気にせずISOを上げ、後処理のAIで消す」というワークフローが、現代のプロフォトグラファーのスタンダードになりつつあります。

7-4. 撮影手法編:加算平均(スタック)合成

三脚が使える風景や星空撮影で有効です。
同じ構図で何枚も(例えば10枚)連続撮影し、Photoshopなどで「加算平均」合成を行います。ランダムに発生するノイズは、重ね合わせることで相殺されて消えていきますが、風景は同じ場所に写り続けるため、結果として「信号成分だけが残り、ノイズ成分が消える」という超高画質データが完成します。

第8章:歴史と進化〜超高感度撮影への挑戦〜

人類は、写真が生まれたその日から「いかに暗い場所で撮るか」という課題に挑み続けてきました。

8-1. 感度「ISO 0.1」以下の時代

19世紀の写真黎明期、ダゲレオタイプや湿板写真の感度は、現在のISOに換算すると0.1以下でした。そのため、ポートレート撮影には数十分の露光時間が必要で、被写体は首を固定台で支えられ、じっと動かないことを強要されました。初期の写真に笑顔の人物がいないのは、笑っていると動いてブレてしまうため、真顔でじっとしているしかなかったからです。

8-2. 銀塩フィルムとASA 400の衝撃

20世紀に入り、ロールフィルムが登場。ASA 100が標準でしたが、ジャーナリズムの世界ではASA 400という高感度フィルムが重宝されました。ベトナム戦争などの戦場写真では、荒れた粒子感(ノイズ)こそが緊迫感の象徴となり、「荒れ=リアリティ」という美学も生まれました。

8-3. デジタル革命と「Nikon D3」ショック

2000年代のデジタル創成期、ISO 800はノイズだらけで使い物になりませんでした。その常識を覆したのが、2007年に登場した「Nikon D3」です。
当時としては異例の低画素数(1210万画素)に抑え、1画素あたりの受光面積を最大化することで、ISO 6400でも実用レベルという驚異的な画質を実現。「デジタル写真は暗所撮影において人間の目を超えた」と言わしめた歴史的転換点でした。

8-4. ISO 40万の世界へ

2014年、SONYが「α7s」を発表。ISO 409600という天文学的な数値を叩き出しました。
肉眼では真っ暗な部屋でも、このカメラを通せば昼間のように写る。もはや「写真(Photography=光で描く画)」の定義を拡張するモンスターマシンの登場により、星空動画や深海撮影などの新たな表現ジャンルが開拓されました。

第9章:主要メーカー別・高感度ノイズ設定ガイド

各メーカーがカメラ内部で行っているノイズリダクション(NR)には、それぞれ個性や呼び名があります。

Canon(キヤノン)

「高感度撮影時のノイズ低減」という項目があります。「標準」でもかなり強力にノイズを消しに来ますが、ややディテールが甘くなる傾向があります。RAW現像派はOFFまたは弱め推奨です。

SONY(ソニー)

「高感度ノイズリダクション」があります。ソニーの画像処理はディテール保持とノイズ除去のバランスが良く、JPEG撮りなら「標準」で問題ありません。

Nikon(ニコン)

「高感度ノイズ低減」。ニコンは輝度ノイズ(粒状感)を残してディテールを守る傾向があります。ザラつきは残りますが、解像感は高いです。

FUJIFILM(フジフイルム)

フィルムシミュレーションと相まって、ノイズを「フィルムの粒状感」のように美しく見せるのが上手です。あえてNRを弱くして(-4など)、粒子感を楽しむユーザーも多いです。

第10章:よくある質問(FAQ)全20問

最後に、初心者の方からよく寄せられる質問にQ&A形式で詳しくお答えします。

Q1. ISOオートの上限はいくつに設定すべきですか?

A. フルサイズなら6400、APS-Cなら3200が目安です。
ブログ用やSNS用であれば、もう1段(12800 / 6400)上げても実用範囲内です。

Q2. 手ブレ補正があればISOは上げなくていいですか?

A. いいえ、被写体ブレは防げません。
ボディ内手ブレ補正(IBIS)は、あなたの手の震えを止めるものであり、走っている子供や風に揺れる花を止めるものではありません。

Q3. 昼間の屋外でISO感度を上げるメリットはありますか?

A. 超高速シャッターが必要な場合はあります。
鳥の飛翔やモータースポーツなど、1/4000秒以上の超高速シャッターを切りたい場合、昼間でも光量が不足することがあります。

Q4. ISO 100以下(ISO 50など)を使うメリットは?

A. スローシャッターを切りたい時にNDフィルター代わりになります。
滝の流れを表現したい時などに有効です。

Q5. 画素数が多いカメラほど高感度に弱いって本当?

A. ピクセルピッチの理屈では本当ですが、縮小すれば差は縮まります。
等倍鑑賞しない限り、そこまで神経質になる必要はありません。

Q6. RAWのほうがノイズは少ないですか?

A. いいえ、RAW自体はノイズだらけです。
JPEGはカメラ内でノイズ除去をしてくれています。RAWは「自分でノイズ除去をするための素材」です。自分で丁寧に処理すれば、JPEG以上の高画質が得られます。

Q7. 星空撮影でISO 6400は必須ですか?

A. レンズが暗い(F4など)なら必須です。
F1.4のレンズがあればISO 1600でも撮れます。機材次第です。

Q8. ノイズリダクションは「強」がいいですか?

A. おすすめしません。塗り絵になります。
基本は「標準」か「弱」で、ディテールを残す方を優先しましょう。

Q9. モノクロ写真ならノイズは気になりませんか?

A. はい、むしろカッコいいです。
カラーノイズは不快ですが、輝度ノイズはモノクロ写真における「粒状感」として、力強さを演出してくれます。

Q10. ISO感度を変えると色が変わるのはなぜ?

A. 信号増幅時にカラーバランスが崩れるからです。
特に暗部は色の情報が少ないため、増幅するとマゼンタ(赤紫)やグリーンに転ぶことが多いです。

Q11. スマホの夜景モードはどうやってるの?

A. あれは高速連写合成(コンピュテーショナルフォトグラフィー)です。
数十枚の写真を一瞬で撮って合成し、ノイズを消しています。一眼カメラのISOアップとは違う技術です。

Q12. 長秒時ノイズ低減機能はONがいい?

A. 星空や夜景ならON推奨です。
ただし撮影時間が2倍になる(10秒露光+10秒処理=20秒待機)ので、テンポは悪くなります。

Q13. 高感度ノイズ低減機能との違いは?

A. 「長秒時〜」は熱ノイズ除去、「高感度〜」はざらつき除去です。
全く別の機能なので、両方設定項目があります。

Q14. ISO感度は1/3段刻みと1段刻み、どっちがいい?

A. 1/3段刻みが便利です。
微調整ができるため、露出を追い込みやすいです。

Q15. 動画撮影時のISO感度の考え方は?

A. 動画こそ「低感度」が重要です。
動画のノイズはチラチラ動いて非常に目立ちます。できるだけ照明を焚いて、ISOを下げて撮るのが映像の鉄則です。

Q16. フィルムシミュレーションのグレインエフェクトとは?

A. 人工的にノイズ(粒子)を足す機能です。
高感度ノイズとは質の違う、綺麗な粒子を足すことで、フィルムライクな質感を作ります。

Q17. 最新の裏面照射型センサーはなぜ高感度に強い?

A. 配線層が受光部の裏側にあるからです。
光を遮る配線がないため、入ってきた光を100%効率よくキャッチでき、S/N比が向上しました。

Q18. 積層型センサーはどうですか?

A. 読み出し速度が速いのでノイズ処理に有利です。
高速読み出しにより、マルチショット合成などの高度な処理が可能になっています。

Q19. ISOダイヤルがないカメラはどうすれば?

A. ファンクションボタンに割り当てましょう。
ISOは頻繁に変えるので、ワンタッチで変えられるようにカスタマイズ推奨です。

Q20. 結局、ISO感度は「悪」なんですか?

A. いいえ、表現の幅を広げる「武器」です。
ノイズを恐れて写真が撮れないことこそが悪です。使いこなせば、夜の世界を支配できます。

第11章:ISO感度関連用語集(完全版)

増感(ぞうかん)
フィルム現像時間を延ばして、実効感度を上げること。デジタルでは単にISO設定を上げることを指す場合も。
減感(げんかん)
ISO感度を下げること。NDフィルターなしでSSを落としたい時などに使う。
常用ISO感度
メーカーが「実用的な画質」として保証している範囲。これを超えると「拡張感度」になる。
S/N比(エスエヌひ)
信号(Signal)とノイズ(Noise)の比率。高いほど良い。
ダイナミックレンジ
再現できる明暗の幅。感度を上げると狭くなる。
ユニティゲインISO(Unity Gain ISO)
1つの光子が1つの電子に変換され、ADコンバーターで1のデジタル値として出力される基準点。一部の天体撮影愛好家が重視する概念。
読み出しノイズ(Readout Noise)
センサーからデータを読み出す際に電子回路が発生させるノイズ。高感度になるほど相対的に影響が小さくなる特性がある。
量子効率(Quantum Efficiency: QE)
入射した光子をどれくらいの確率で電子に変換できるかという効率。最新の裏面照射型センサーでは80%〜90%に達するものもある。
暗電流ノイズ(Dark Current Noise)
光が当たっていなくても、熱によって電子が発生してしまう現象。冷却CCDカメラなどが使われるのはこれを防ぐため。
モアレ(干渉縞)
高感度ノイズとは直接関係ないが、画素ピッチと被写体の模様が干渉して発生する縞模様。

まとめ|ISO感度とは「時間を買う」ための通貨である

ISO感度は、単なる明るさ調整ダイヤルではありません。それは「シャッタースピード」という時間、あるいは「F値(絞り)」という表現の自由度を買うための通貨のようなものです。

ノイズを極端に恐れてISO感度を上げることを躊躇し、結果としてブレた写真を量産してしまうことほど、もったいないことはありません。
「ノイズのある写真は思い出になるが、ブレた写真はゴミ箱行き」という格言があります。

現代のカメラは驚くほど高感度性能が進化しています。そしてAIによる後処理技術も完成の域に達しています。
ISO 6400、いやISO 12800さえも恐れる必要はありません。積極的に感度を上げ、これまでは諦めていた「暗闇の中の美しい瞬間」を捉えに行きましょう。

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この記事を書いた人

写真の教科書 編集部では、
カメラ初心者から中級者の方に向けて、
設定・用語・撮影の考え方をわかりやすく整理しています。

「感覚」や「経験」ではなく、
理屈から理解できる解説を大切にしています。

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