マニュアルモード(M)の完全攻略|F値・SS・ISOを支配して「理想の1枚」を撮る手順

カメラ

「マニュアルモードなんてプロが使うものでしょ?」
「難しそうで、ダイヤルを回す勇気がない」
「結局、オートで撮った方が綺麗なんじゃない?」

そう思っていませんか?
確かに最近のカメラのオート機能は優秀です。しかし、オートはあくまで「平均点」を出すための機能であり、「あなたの撮りたいイメージ」を理解してくれるわけではありません。

マニュアルモード(M)を使えるようになること。それは、カメラに撮らされるのではなく、「あなたがカメラを操って写真を撮る」ことへの第一歩です。
星空も、花火も、スタジオ撮影も、長秒露光の水の流れも、マニュアルモードなしでは撮れません。

この記事では、F値、シャッタースピード、ISO感度という「3つの要素(露出の三角形)」の関係性を完全に紐解き、誰でも迷わずにMモードを使いこなせるようになるための「思考のフローチャート」を伝授します。
全角1万文字を超える特大ボリュームですが、読み終わる頃には、モードダイヤルを「M」に合わせたくてウズウズしているはずです。

目次

第1章:なぜマニュアルモードが必要なのか?|オートの限界と固定の重要性

カメラ

Pモード(プログラムオート)やAモード(絞り優先)は便利ですが、万能ではありません。
カメラが「勝手に気を利かせてしまう」ことが、逆に仇となるシーンがあるからです。

1-1. オートが苦手なシーン

  • 花火:夜空の暗さに反応して、シャッターを開きすぎて真っ白になる。
  • 星空:星の光が弱すぎて、ピントも露出も迷子になる。
  • 滝や川のスローシャッター:明るい日中にシャッターを長く開けようとしても、限界がある。
  • パノラマ合成用の素材:1枚ごとに明るさが変わると、つなぎ合わせられない。
  • スタジオストロボ:瞬間光(フラッシュ)の明るさをカメラは予測できない。

これらはすべて、「明るさや設定を固定(Fix)したい」というシーンです。
マニュアルモードの最大のメリットは、「撮影者が変えない限り、カメラは絶対に設定を勝手に変えない」という信頼感にあります。

第2章:露出の三角形(Exposure Triangle)の完全理解

Mモードを使いこなすには、3つのパラメータがどう連動しているかを知る必要があります。
これを「露出の三角形」と呼びます。

🔍 露出の3要素

  1. F値(絞り):光の入り口の大きさ。
    → 小さい数字ほど明るく、ボケる。
    → 大きい数字ほど暗く、全体にピントが合う。
  2. シャッタースピード(SS):光を取り込む時間。
    → 速いほど暗く、動きが止まる。
    → 遅いほど明るく、動きがブレる(流れる)。
  3. ISO感度:光に対する敏感さ。
    → 低いほど暗く、高画質。
    → 高いほど明るく、ノイズが増える。

2-1. コップの水に例えると分かりやすい

「適正露出(ちょうどいい写真)」を「コップ一杯の水」に例えましょう。

  • 蛇口の太さF値
  • 水を出す時間シャッタースピード
  • コップの底上げISO感度(少ない水でも溢れさせるドーピング)

蛇口を細くしたら(F値を上げたら)、時間を長く(SSを遅く)しないとコップは満タンになりません。
時間を短くしたければ、蛇口を全開(F値を開放)にする必要があります。
それでも足りなければ、底上げ(ISO感度アップ)をします。

このバランス調整を、全手動でやるのがMモードです。

第3章:「段(Stop)」の計算式をマスターする

カメラ

カメラマンが会話でよく使う「1段明るくして」「2段絞って」という言葉。
この「段(Stop)」という共通単位を理解すると、Mモードの操作が劇的に速くなります。

3-1. すべては「2倍」か「1/2」か

写真の世界では、光の量が2倍になることを「+1段」、半分になることを「-1段」と言います。

  • シャッタースピード
    1/500秒 → 1/250秒(時間が2倍 = +1段明るくなる)
    1/500秒 → 1/1000秒(時間が半分 = -1段暗くなる)
    これは単純な算数なので分かりやすいです。
  • ISO感度
    ISO 400 → ISO 800(感度が2倍 = +1段明るくなる)
    ISO 400 → ISO 200(感度が半分 = -1段暗くなる)
    これも整数倍なので簡単です。
  • F値(絞り)
    ここだけが難関です。面積の計算なので「ルート2(約1.4)」倍で推移します。
    F1.4 → F2.0 → F2.8 → F4.0 → F5.6 → F8.0 → F11 → F16
    この並び順(F値の系列)を暗記する必要があります。
    例えば「F5.6から1段明るくして」と言われたら、F4.0にするのが正解です。

3-2. 等価交換の法則(アジャストメント)

Mモードの極意は、この「段」のトレードオフです。
例えば、適正露出の設定が【F5.6 ・ 1/250秒 ・ ISO 100】だとします。

「もっと背景をボカしたいから、F2.8にしたい(2段明るくする)」と決めました。
光が2段分増えすぎたので、どこかで2段分減らさなければなりません。

→ SSを2段速くする:1/250 → 1/500 → 1/1000秒に変更。
これで、明るさ(露出)はプラマイゼロで変わらず、ボケ感だけを変えることができました。

このパズルを瞬時に頭の中でできるようになれば、あなたはMモードマスターです。

第4章:Mモードの「思考フローチャート」|どの順序で決めるか

「3つも同時に考えられない!」とパニックになる必要はありません。
実は、決める順番には明確なセオリーがあります。

Step 1. 表現したいことは「ボケ」か「動き」か?

  • 「ボケ」をコントロールしたい場合(ポートレート、風景)
    最優先で「F値」を決めます。
    (例:背景をぼかすならF1.8。隅々まで解像させるならF8。)
  • 「動き」をコントロールしたい場合(スポーツ、滝、動物)
    最優先で「シャッタースピード」を決めます。
    (例:鳥を止めるなら1/2000秒。水を流すなら0.5秒。)

Step 2. 足りない明るさを、残りの2つで補う

  • F値を決めた場合
    手ブレしないギリギリのシャッタースピードに設定し、それでも暗ければISOを上げる。
  • SSを決めた場合
    F値を一番明るく(開放)しても暗ければ、ISOを上げる。

Step 3. 最終調整はISO感度

現代のデジタルカメラにおいて、ISO感度は「明るさの調整役(バッファー)」です。
F値とSSは「表現(ボケやブレ)」に直結するので動かしたくない。
だから、明るさが足りない分は、画質を多少犠牲にしてでもISO感度で補うのが正解です。

第5章:ISOオート活用のすすめ|現代流のMモード

「マニュアルモードって、ISO感度も自分で決めるんでしょ? いちいち変えるの大変すぎない?」
そう思った方、鋭いです。
晴れた屋外から日陰に入った瞬間、毎回ISOを変更するのはプロでも面倒です。

5-1. 「Mモード + ISOオート」こそ最強の設定

実は、今のカメラマンの9割は「Mモードだけど、ISOはオート」で撮っています。
ペンタックスでは「TAvモード」として独立しているほど便利な機能です。

  • 人間が決める:F値(ボケ具合)と SS(ブレ具合)。
  • カメラが決める:ISO感度(適正露出になるように勝手に調整)。

これなら、「ボケ」と「動き」は完全にコントロールしつつ、明るさはカメラが合わせてくれるので、Aモードのような手軽さで撮影できます。
さらに露出補正ダイヤルも使えるので、実質的な「万能モード」として機能します。

🎓 プロのアドバイス
最初は「Mモード+ISOオート」から始めてください。
「ボケ」と「動き」の両方を自分で決める快感を味わえます。
そして、星空や三脚撮影など「ISOを勝手に上げられたくない」時だけ、ISOをマニュアル(固定)にすればOKです。

第6章:露出の古典「サニー16ルール」とEV値

カメラの露出計が壊れたら、あなたはどうやってF値とSSを決めますか?
フィルム時代のカメラマンは、「サニー16(Sunny 16)」という法則を使って、露出計なしでも適正露出を導き出していました。

6-1. Sunny 16 Rule(晴れの日はF16)

「快晴の屋外であれば、F16・SS 1/ISO分の1秒 が適正露出になる」という法則です。
例えば、ISO100のフィルムを使っているなら、「F16・1/100秒」が基準になります。

  • 快晴(Sunny):F16
  • 薄曇り:F11
  • 曇り:F8
  • 雨天・日陰:F5.6

これを知っていれば、Mモードで露出計を見なくても、「今は曇りだからF8で1/100秒か。でもボケさせたいからF2.8にしよう(3段開ける)。じゃあSSは3段速くして1/800秒だな」と計算できるのです。

6-2. EV値(Exposure Value)の基本

写真の明るさを絶対的な数値化したものがEV値です。
ISO100におけるEV値の目安は以下の通りです。

EV 15 真夏の直射日光(快晴)
EV 12 曇りの屋外
EV 9 かなり暗い日陰、夕暮れ
EV 6 明るい室内の照明
EV 3 夜間の街灯のある場所
EV 0 満月の明かりだけ

最近のカメラは「AF低輝度限界 EV-6」などとスペックに書かれていますが、これは「EV-6(真っ暗闇に近い状態)でもピントが合いますよ」という意味です。

第7章:画質の鬼になる「ETTR」理論とヒストグラム

マニュアルモードでこそ実践できる、究極の画質向上テクニックがあります。
それが「ETTR(Expose To The Right)」です。

7-1. なぜ「右」に寄せるのか

デジタルカメラのセンサーは、明るい部分(ヒストグラムの右側)ほど多くの信号データ(階調)を持っています。
逆に、暗い部分(左側)はデータ量が少なく、ノイズが埋もれています。

そのため、撮影時は「白飛びしないギリギリまで右側(明るめ)に寄せて撮る」のが正解です。
そして、現像時(RAW現像)に明るさを下げて適正に戻す。
こうすると、普通に撮るよりもシャドウ部のノイズが劇的に少ない「リッチな画像」が得られます。

オート露出だと「平均的なグレー」に合わせてしまうため、このETTRができません。
マニュアルモードで、ヒストグラムの「右の壁」を見ながらギリギリを攻める。
これが、風景写真家がMモードを使う最大の理由の一つです。

第8章:測光モードとゼブラパターンの高度な活用

Mモードを使う際、「カメラが今の明るさをどう判断しているか」を知るための「測光モード」も重要です。

8-1. スポット測光の威力

通常は「マルチパターン測光(評価測光)」でOKですが、Mモードと相性が良いのが「スポット測光」です。
これは、画面の中央一点(数%の範囲)の明るさだけを測るモードです。

例えば、逆光で人物の顔が暗くなっている時、マルチ測光だと背景の明るさに引っ張られて「明るすぎます(露出オーバー)」と警告が出ます。
しかし、スポット測光にして測距点を「顔」に合わせると、露出インジケーターは正直に「顔は暗いです(露出アンダー)」と教えてくれます。
Mモードの指標として、カメラに「どこを見てほしいのか」を指示するのがスポット測光です。

8-2. ゼブラパターンの活用

ソニー機などで搭載されている「ゼブラ表示」も強力な武器です。
「輝度100%以上の部分に縞模様を出す」設定にしておけば、白飛びしている箇所がリアルタイムに警告されます。
MモードでF値やSSを操作し、「被写体の顔からゼブラが消えるギリギリのところ」に設定する。
これこそが、デジタル時代の最も精密な露出決定プロセスです。

第9章:シーン別・Mモード設定レシピ詳細解説

「この被写体なら、だいたいこの数値から始めればOK」という基準値(レシピ)があります。
これを暗記しておくと、現場で迷う時間がゼロになります。

9-1. 星空(天の川)のレシピ

  • F値:開放(F2.8以下推奨)
  • SS:15〜20秒
  • ISO:3200〜6400

【解説】
星は暗いので、レンズの絞りは全開にします。
シャッタースピードを長く開ければ開けるほど明るくなりますが、地球は自転しているため、20秒を超えると星が「点」ではなく「線」になってしまいます。
これを「500ルール(500 ÷ 焦点距離 = 限界露光時間)」と言います。
例えば24mmレンズなら、500 ÷ 24 ≒ 20秒が限界です。
それでも暗いので、ISO感度を3200以上に上げざるを得ません。ノイズは後処理で消す覚悟で上げましょう。

9-2. 花火撮影のレシピ

  • F値:F11〜F16
  • SS:バルブ(Bulb)
  • ISO:100(最低感度)

【解説】
花火は非常に明るい光源です。F8〜F11くらいまで絞らないと白飛びして色が出ません。
シャッタースピードは「打ち上がった瞬間」に開け、「開ききって消えるまで」開け続ける必要があるため、バルブ撮影が必須です。
レリーズを使い、ヒュ〜という音と共にシャッターを押し、ドン!パラパラ…と消えたら離す。
この職人のようなタイミング合わせが花火撮影の醍醐味です。

9-3. 滝・渓流(絹のような流れ)のレシピ

  • F値:F11〜F16(必要ならもっと絞る)
  • SS:0.5秒〜2秒
  • ISO:100(最低感度)

【解説】
水を糸のように流すには、スローシャッターが必要です。
しかし日中に1秒も開けると、光が多すぎて画面が真っ白になります。
そこで、ISOを最低にし、絞りをF16まで絞って光を制限します。
それでもまだ明るすぎる場合がほとんどなので、レンズにサングラス(NDフィルター)を装着して、強制的に暗くする必要があります。

9-4. 飛行機・野鳥(解像度重視)のレシピ

  • F値:F5.6〜F8
  • SS:1/2000秒〜
  • ISO:Auto

【解説】
動きの速い被写体を止めるには、1/2000秒以上の高速シャッターが必要です。
また、レンズは「開放」よりも「少し絞った(1〜2段絞った)状態」が最も解像度が高くなる特性があります(スイートスポット)。
そのため、開放F5.6のレンズならF8まで絞り、SSを確保し、ISO感度はカメラ任せにするのが定石です。

9-5. 運動会(絶対に失敗できない)のレシピ

  • F値:開放〜F5.6
  • SS:1/1000秒以上(固定)
  • ISO:Auto(上限6400)

【解説】
運動会で一番怖い失敗は「被写体ブレ」です。
子供が走る速度は速いので、SS 1/500秒でも微妙にブレることがあります。
そこで、SSを1/1000秒に「固定」してしまいます。こうすれば、絶対にブレません。
その代わり、曇ったり日陰に入ったりすると暗くなるので、ISO感度が自動で上がって明るさを補うように設定します。

9-6. 月(満月)のレシピ

  • F値:F11
  • SS:1/ISO秒(ISO100なら1/100〜1/125秒)
  • ISO:100〜400

【解説】
真っ暗な夜空にあるため、オートで撮ると月は「真っ白な円盤」に写ってしまいます。
しかし月は太陽の光を反射している「岩石」なので、実はかなり明るい被写体です。
これを「Loony 11 Rule(月のF11の法則)」と呼びます。
F11まで絞り、SSを速めに設定することで、クレーターの陰影までクッキリ写し出すことができます。

第10章:バルブ撮影(B)の深淵なる世界|30秒を超える露光とLENR

カメラ

カメラのシャッタースピードは、通常「30秒」が最長です。
しかし、星の日周運動(グルグル回る星)や、数分間にわたる花火の打ち上げ、あるいは完全に波を消し去る海面描写を撮るには足りません。
そこで使うのが「バルブ(Bulb)」モードです。

10-1. バルブ撮影とは

シャッターボタンを押している間ずっと、シャッターが開き続けるモードです。
指で押し続けると微振動でブレるので、必ず「レリーズ(リモコンケーブル)」を使います。

  • B(バルブ):押している間だけ開く。離すと閉じる。
  • T(タイム):一度押すと開きっぱなし、もう一度押すと閉じる。(ニコンや富士フイルムの一部機種、またはレリーズ側の機能)

10-2. 必要な機材と準備

  1. 三脚:必須。絶対に動かしてはいけません。石を入れたバッグを吊るして重くするなどの風対策も必要です。
  2. レリーズ:有線でも無線でもOKですが、電池切れのリスクがない有線が信頼性が高いです。
  3. NDフィルター:日中に数分間の長秒露光をするなら、ND1000やND32000といった極めて濃いフィルターが必須です。
  4. アイピースカバー:一眼レフの場合、ファインダーから逆流した光が内部に入り込むのを防ぐため、ファインダーを覆う必要があります。(ミラーレスは不要)

10-3. 長秒時ノイズ低減(LENR)の罠

バルブ撮影で1分間シャッターを開けると、センサーが熱を持ち、「長秒時ノイズ(熱ノイズ)」という赤い砂のようなノイズが発生します。
これを防ぐために、カメラには「長秒時ノイズ低減」機能があります。
しかし、これには罠があります。

「撮影した時間と同じ時間だけ、処理時間がかかる」のです。
もし10分間の露光をしたら、撮影直後から10分間、カメラは「処理中」となり操作不能になります。
花火大会でこれをやってしまうと、次の花火が上がっているのに指をくわえて見ているだけ、という悲劇が起きます。
連続して撮りたい場合(花火や星の軌跡)は、この機能をOFFにするのが鉄則です。

第11章:NDフィルターの段数計算テーブル

マニュアルモードでスローシャッターを切る場合、NDフィルターは「光のサングラス」として必須です。
「ND16とかND400とか言われても、結局シャッタースピードはどうなるの?」という疑問に答える早見表です。

フィルター名 減光段数 光の透過率 シャッター速度の変化(基準1/1000秒)
ND4 2段 25% 1/250秒
ND8 3段 12.5% 1/125秒
ND16 4段 6.25% 1/60秒
ND64 6段 1.5% 1/15秒
ND1000 10段 0.1% 1秒

滝を白糸のように撮るならND64〜ND1000がよく使われます。
日中の街中で人を消す(30秒露光など)なら、ND32000などの超高濃度フィルターが必要です。

第12章:ストロボ撮影と「同調速度」の壁|HSSとガイドナンバー

スタジオやクリップオンストロボを使うとき、なぜか多くのカメラマンが「シャッタースピード 1/125秒」に固定していることに気づくはずです。
「もっと速くすれば手ブレしないのに、なぜ1/125秒?」
これは習慣ではなく、物理的な制約によるものです。

12-1. シンクロ同調速度(X-sync)の限界

カメラのシャッター(フォーカルプレーンシャッター)には、「幕が全開になる限界の速さ」があります。
これを「同調速度」と呼び、多くのフルサイズ機で1/200秒1/250秒が上限です。

もしSS 1/1000秒などで無理やりストロボを焚くとどうなるか?
写真の下半分が真っ黒になります(幕切れ現象)。
先幕が走り出した直後に後幕が追いかけてくるため、センサーが「全開」になる瞬間がなく、スリット状にしか露光しないからです。
ストロボの一瞬の閃光(1/10000秒など)は、その狭いスリットの一部しか照らせません。

そのため、マニュアルモードでストロボを使うときは、安全マージンをとって「SS 1/125秒」に固定するのが定石です。

12-2. 1/8000秒でストロボを使う「ハイスピードシンクロ(HSS)」

「でも、日中に絞り開放(F1.4)でストロボポートレートを撮りたい!」
この場合、SSは1/4000秒などになります。
ここで登場するのが「ハイスピードシンクロ(HSS)」機能です。

これは、ストロボを一瞬だけ光らせるのではなく、シャッターが走っている間ずっと「ピカピカピカピカッ!」と高速で連続発光させる技術です。
これにより、1/8000秒でも幕切れせずに撮影できます。
ただし、連続発光させるため光量が激減します。あまり遠くまでは届かなくなるので注意が必要です。

12-3. ガイドナンバー(GN)計算式

マニュアル発光で光量を決めるとき、以下の公式が役立ちます。

ガイドナンバー(GN) = 絞り(F値) × 距離(m)

例:GN60のストロボをフル発光させる場合、
被写体が5m先にいるなら、60 ÷ 5 = 12。
つまり「F11〜F13」くらいに設定すれば適正露出になります。
ISO感度を上げれば(ISO100→400で2段分)、到達距離は2倍に伸びます。
TTL(自動調光)が優秀な現代では計算する機会は減りましたが、原理を知っているとトラブル時に強くなります。

第13章:カスタムモード(C1/C2)への登録でプロ化する

Mモードの設定は、いちいちダイヤルを回して変更するのが手間です。
そこで、頻繁に使うシーンの設定をまるごと「カスタムモード(C1 / C2 / C3)」に登録してしまいましょう。

  • C1(動体用):SS 1/1000秒、F5.6、ISO Auto、連写H+、AF-C(追従)
  • C2(スタジオ/ストロボ用):SS 1/125秒、F8、ISO 100、単写、AF-S(ワンショット)
  • C3(長秒露光/三脚用):SS 2秒、F11、ISO 100、2秒タイマー、手ブレ補正OFF

こうしておけば、ダイヤルをカチッと回すだけで、瞬時にMモードの最適設定を呼び出せます。
「Mモードは遅い」というのは過去の話。カスタム登録したMモードは、オートよりも高速に撮影スタンバイが完了します。

第14章:RAW現像とMモードの関係|なぜ「生データ」なのか

マニュアルモードを使う人の多くが、保存形式を「JPEG」ではなく「RAW」に設定しています。
その理由は、プロセスの違いにあります。

14-1. JPEGは「現像済み」のインスタント食品

JPEGの場合、カメラ内部で「このくらいの色、このくらいの明るさ」と決定して圧縮保存されます。
もしMモードで失敗して真っ暗に写ってしまった場合、後からパソコンで明るくしようとしても、データが残っていないためノイズだらけになります。

14-2. RAWは「食材そのもの」

一方、RAWデータはセンサーが捉えた光の情報をそのまま保存した「生のデータ」です。
もし2段くらい露出アンダーで撮ってしまっても、RAW現像ソフト(Lightroomなど)で明るさを持ち上げれば、まるで適正露出で撮ったかのように綺麗に復元できます。

「Mモードは失敗が怖い」という人こそ、RAWで撮るべきです。
RAWであれば、多少の露出ミスは「後で直せる誤差」になるからです。
Mモードの自由度と、RAWの修復力。この2つを組み合わせることで、失敗を恐れずに攻めた設定ができるようになります。

第15章:露出インジケーター(メーター)の見方

Mモードで撮るとき、画面の下やファインダーの中に、目盛りのようなバーが表示されます。
これが「露出インジケーター」です。

✅ 露出計の読み方
-3 .. -2 .. -1 .. 0 .. +1 .. +2 .. +3

  • 針が「0」にある:カメラが考える適正露出(18%グレー)。
  • 針が「+」側にある:露出オーバー(明るい)。
  • 針が「-」側にある:露出アンダー(暗い)。

Mモード(ISO固定)では、ダイヤルを回して、この針が「0」付近に来るようにF値やSSを調整するのが基本操作になります。
ただし、夜景や雪景色では「0」が正解とは限りません(露出補正の記事参照)。あくまで目安として使いましょう。
「雪景色なら+2.0」「夜景なら-1.0」と、意図的に針をズラすのが上級者のMモードです。

第16章:FAQ|Mモードに関する全疑問にお答えします

カメラ

Q1. 失敗が怖くてマニュアルにできません。

A. ミラーレスなら「失敗しません」。
EVF(電子ファインダー)には、設定した明るさがリアルタイムで反映されています。
画面が真っ暗なら、その時点で設定が間違っていると気づけます。
撮る前に結果が見えるので、実はオートよりも失敗率が低いです。

Q2. F値、SS、ISOのどれから変えるべき?

A. 「動かしたくないもの」から固めます。
ボケ重視ならF値固定。動き重視ならSS固定。
どうでもいい(画質以外に影響しない)ISOは最後に調整します。

Q3. ISOオートだとノイズが心配です。

A. 「ISO上限設定」を使いましょう。
メニュー内で「ISO感度設定 → オート設定時の上限」を「6400」や「3200」に制限できます。
これで勝手にISO25600まで上がってザラザラになる事故を防げます。

Q4. ライブ撮影でSSはどうすればいい?

A. フリッカー(照明の点滅)に注意です。
SSを1/100秒(関東)や1/60秒(関西)に合わせないと、横縞のノイズが入ることがあります。
「フリッカーレス撮影ON」にするか、微調整して消えるポイントを探します。

Q5. 滝を撮りたいのに白飛びします。

A. 明るすぎて、SSを遅くできない状態です。
F値を最大(F22)まで絞り、ISOを最低(100)にしても白飛びするなら、NDフィルター(減光フィルター)を買うしかありません。

Q6. 星空撮影でピントが合いません。

A. AF(オートフォーカス)は効きません。
MF(マニュアルフォーカス)に切り替え、一番明るい星を拡大表示して、点が一番小さくなるようにピントリングを回します。
無限遠(∞)マークはあてにならないことが多いです。

Q7. 花火撮影で「黒い紙」を使うのはなぜ?

A. いらない光をカットするためです。
バルブでずっと開けていると、花火と花火の間の煙や、街明かりも写ってしまいます。
花火が上がった瞬間だけ紙をどけて、終わったらすぐレンズを隠す。これを繰り返すと綺麗な多重露光ができます。

Q8. マニュアルモードで露出補正ダイヤルは効く?

A. 「ISOオート」の時だけ効きます。
ISO固定にしていると、ダイヤルを回しても何も起きません(無効)。

Q9. プロは常にMモードなんですか?

A. いえ、Aモード(絞り優先)も多用します。
スナップや報道など、スピード命の現場ではAモードの方が速いです。
Mモードを使うのは、明るさを「固定」したい時(スタジオ、風景、一定環境など)です。

Q10. Bulbモードにする方法がわかりません。

A. SSダイヤルを一番遅い方(30秒の先)へ回すと出てきます。
またはモードダイヤル自体に「B」がある機種もあります。

Q11. 露出インジケーターが点滅しています。

A. 「測定不能(露出オーバー/アンダーの限界突破)」です。
設定が極端すぎるので、すぐに数値を戻してください。

Q12. 親指AFとMモードの相性は?

A. 最高です。
ピント(親指)とシャッター(人差し指)を分離し、露出も分離(Mモード)。
カメラの全権限を人間が握る、最もプロフェッショナルな操作体系です。

Q13. 電子シャッターとメカシャッター、Mモードでどっちがいい?

A. 基本はメカシャッター推奨です。
電子シャッターは、人工照明下で縞模様(バンディング)が出たり、高速で動く被写体が歪んだり(ローリングシャッター歪み)するリスクがあります。

Q14. ヒストグラムはMモードでも見るべき?

A. 必須です。
特に星空などの暗いシーンでは、目が暗順応してモニターが明るく見えすぎるため、ヒストグラムだけが頼りです。

Q15. マニュアルモードの練習法は?

A. 「部屋の適正露出」と「外の適正露出」を体感で覚えることです。
「今の部屋なら、ISO800でF2.8なら、SSは1/60くらいかな?」と予想して撮ってみる。
これを繰り返すと、露出計を見なくても設定ができるようになります。

Q16. ミラーアップ撮影(M-UP)は必要ですか?

A. 一眼レフで長秒露光をするなら必須です。
一眼レフカメラは、撮影の瞬間に内部の鏡が「バタン!」と跳ね上がります。この衝撃(ミラーショック)で写真が微小にブレることがあります。
SSが1/60秒〜2秒くらいの領域で特に目立つため、風景撮影では「ミラーアップ」設定をして、1回目でミラーを上げ、2回目でシャッターを切るという手順を踏みます。
ミラーレス機には鏡がないので、この心配は不要です。

Q17. マニュアルモード時のホワイトバランスはどうすれば?

A. 基本は「固定(太陽光や曇天)」がおすすめです。
せっかく明るさをマニュアルで固定しても、色温度がオート(AWB)のままだと、構図を変えるたびに色味まで変わってしまいます。
特にパノラマ合成や、定点観測をする場合は、ホワイトバランスも固定(ケルビン指定など)することで、完全な統一感のある写真群を作ることができます。

まとめ|「制御できる」心地よさを知ろう

マニュアルモードは、決して難しいものではありません。
「3つのパラメータを自分で決める」だけのシンプルなモードです。

「この写真は、私の意図で、この明るさにして、このボケにしたんだ」
そう言える写真は、オートで偶然撮れた100点の写真よりも、価値があります。

この記事で紹介した「思考のフローチャート」と「シーン別レシピ」があれば、もう迷うことはありません。
最初は失敗するかもしれませんが、その失敗すらも「なぜ暗くなったのか?」「なぜブレたのか?」という、オートでは気づけなかった学びの宝庫です。

さあ、モードダイヤルを「M」に合わせて、世界をあなたの意思で切り取りに行きましょう。
カメラを支配する楽しさへ、ようこそ。

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写真の教科書 編集部では、
カメラ初心者から中級者の方に向けて、
設定・用語・撮影の考え方をわかりやすく整理しています。

「感覚」や「経験」ではなく、
理屈から理解できる解説を大切にしています。

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