夏の夜空を彩る大輪の華、花火。
その美しさを記録しようと、多くの人がスマートフォンや一眼レフカメラを向けますが、その結果は残酷なほどに分かれます。
スマホで撮った写真は、ただの白い点がポツポツと映るだけの「虚無」になりがちです。
一方で、SNSやポスターで見かける花火写真は、鮮やかな色が闇に滲み、光の軌跡が優雅な曲線を描いています。
この決定的な差は、カメラの性能差だけではありません。
光という物理現象を理解し、それをセンサーに記録するための「時間」と「光量」の制御を、論理的に行えているかどうかの差です。
花火撮影は、写真ジャンルの中でも特殊な部類に入ります。
なぜなら、被写体である花火は「自発光する移動物体」であり、かつ「輝度差が極端に激しい」からです。
さらに、打ち上げのタイミングや風向きといった、自然環境と不確定要素を計算に入れる必要があります。
そこには、スポーツ撮影のような反射神経と、風景撮影のような緻密な計算、そして流体力学的な風の読みが求められます。
つまり、花火撮影とは「物理学」と「気象学」の応用実践なのです。
本記事では、2026年の最新機材事情とトレンドを踏まえつつ、花火撮影に必要な機材の工学的選定、バルブ撮影における露光時間の物理的意味、そしてRAW現像による「色の復元」プロセスまでを、教科書のように網羅的に解説します。
感覚ではなく、理屈で撮る。
それが、あの一瞬の輝きを永遠のアートに変える唯一の方法です。
📍 この記事でわかること
- バルブ撮影の原理:数秒〜数十秒の「時間」を一枚の写真に凝縮するメカニズム
- NDフィルターの光学:明るすぎる現代の花火を減光し、白飛びを防ぐ透過率計算
- 気象学的アプローチ:風向きと煙の拡散予測による「死に場所」の回避術
- デジタル多重露光:比較明合成(Lighten)アルゴリズムを用いた作品制作フロー
1. 花火撮影の物理学と「バルブ」の絶対性

花火は「点」ではなく「線」で描く被写体です。人間の目は残像によって光の軌跡を感じ取りますが、カメラのセンサーは瞬間しか切り取れません。そこで、シャッターを長時間開き続けることで、光の移動経路をすべて記録し、人間の脳内イメージを再現するのです。これが長時間露光(Long Exposure)の物理的意味です。
花火の滞空時間とシャッター速度の可変性|1秒〜15秒のレンジ
花火の種類によって、打ち上げられてから開花し、消滅するまでの時間は異なります。
例えば、小さな「割物(わりもの)」であれば2〜3秒で消えますが、夜空一面に広がる「錦冠(にしきかむろ)」や「千輪菊」などは、開花してから光の尾を引いて垂れ下がり、完全に消えるまで10秒以上かかることもあります。
また、複数の花火が連続して打ち上がる「スターマイン」の場合、その一連のシーケンスをすべて入れようとすれば、20秒〜30秒の露光が必要になる場合もあります。
通常の写真撮影では、シャッタースピードは「1/100秒」や「1/500秒」といった固定値で設定します。
しかし、花火撮影において固定値は無意味です。
「次は5秒の花火が上がるか、10秒の花火が上がるか」は、打ち上がる瞬間まで分からないからです。
もしシャッタースピードを「5秒」に固定していた場合、10秒続く花火の後半5秒間は記録されず、途中で光が途切れた中途半端な写真になってしまいます。
逆に、2秒で終わる花火に対して5秒の設定では、余計な3秒間に背景の余分な光や煙を拾ってしまい、画質が低下します。
この「予測不能な発光時間」に対応するためには、撮影者がリアルタイムでシャッター時間を可変させる必要があります。
バルブ撮影(Bulb)の定義とメカニズム|指先で時間を切り取る
そこで登場するのが、カメラの撮影モードにある「B(バルブ)」です。
バルブモードとは、「シャッターボタンを押している間だけシャッター幕が開き、ボタンを離すと閉じる」という、極めて原始的かつ直感的な制御モードです。
1800年代の初期カメラにあった、空気圧でシャッターを作動させるゴム球(Bulb)が語源とされています。
具体的な撮影フローは以下のようになります。
- 「ヒュ〜」という打ち上げ音が聞こえ、光の玉が上昇していくのを見たら、シャッターボタンを押す(露光開始)。
- 花火が上空で「ドン!」と開花し、光の筋が広がるのをファインダーではなく肉眼で見届ける。
- 光が消えかけ、美しい余韻が残っているタイミングで、シャッターボタンを離す(露光終了)。
これにより、花火の全行程を過不足なくセンサーに焼き付けることができます。
この操作を正確に行うためには、カメラ本体のボタンではなく、外部コントローラーである「レリーズ」が必須となります(後述)。
電子シャッターの弊害とメカシャッターの推奨理由
近年のミラーレスカメラは、無音で撮影できる「電子シャッター」が主流になりつつあります。
しかし、花火撮影の長秒露光においては、電子シャッター特有のノイズや、読み出し方式による制限(バルブ撮影不可の機種もある)が問題になることがあります。
また、電子シャッターはセンサーからのデータ読み出し速度に依存するため、強い点光源(花火の芯)が動くと、ローリングシャッター歪みにより光跡が不自然に歪むリスクもゼロではありません。
そして何より、バルブ撮影時の露光時間の制御において、メカニカルシャッターの方が直感的かつ確実な動作をすることが多いです。
基本的には「メカシャッター」または「電子先幕シャッター」を使用することを推奨します。
ノイズリダクション機能(長秒時ノイズ低減)は必ず「OFF」にしてください。
ONにすると、撮影直後に同時間のダークフレーム減算処理(5秒撮ったら5秒の処理待ち)が発生し、次の花火を撮り逃すことになります。
2. 三種の神器(三脚・レリーズ・ND)の工学的選定
花火撮影は手持ちでは100%不可能です。どんなに高価なカメラを持っていても、三脚とレリーズがなければスタートラインにすら立てません。これらはカメラのアクセサリーではなく、カメラ本体の一部であると認識してください。
カーボン三脚の減衰特性|人混みの振動を吸収する物理
花火会場は非常に混雑しています。
周囲には何万人もの観客がおり、彼らが歩く振動や、近くの道路を走る車の振動が地面を伝わってきます。
長秒露光中、カメラは数秒〜数十秒間、露光し続けます。
この間にミクロン単位でもカメラが動けば、花火の繊細な光跡はギザギザに波打ち、台無しになります。
ここで重要なのが三脚の「素材」です。
安価なアルミ三脚は、振動を伝えやすく、一度揺れるとなかなか収まらない(減衰性が低い)性質があります。
一方、カーボンファイバー(炭素繊維)製の三脚は、振動減衰性に優れています。
地面からの振動を素早く収束させ、カメラを静止状態に保つ能力が高いのです。
パイプ径は太ければ太いほど良いですが、最低でも25mm以上、できれば28mm〜32mm径の中型・大型三脚を選んでください。
また、エレベーター(センターポール)は「片持ち梁」のような構造になり、振動の増幅装置となるため、当日は絶対に伸ばしてはいけません。
レリーズケーブルの必要性|本体接触による微小ブレの排除
バルブ撮影では、打ち上げの瞬間にシャッターを押し、消える瞬間に離すという操作を行います。
これをカメラ本体のボタンを指で行うとどうなるでしょうか。
押す瞬間の「押し込み圧」でカメラが下を向き、離す瞬間の「反動」でカメラが上を向きます。
結果、写真の最初と最後で光跡がブレてしまいます。
物理的な接触を断つために、有線の「レリーズケーブル(リモートコード)」を使用します。
無線タイプのリモコンでも良いですが、混雑した会場では電波干渉や赤外線の届きにくさ、電池切れのリスクがあるため、信頼性の高い有線ケーブルがプロの現場では好まれます。
ボタンをスライドさせてロックできる機能があると、連発花火の撮影時に指が疲れず便利です。
NDフィルター(ND4/ND8)の透過率計算|白飛びを防ぐ減光の数式
「夜なのにサングラス?」と疑問に思うかもしれません。
しかし、現代の花火は非常に明るく進化しています。
特に、パステルカラーの発色を良くするために燃焼温度を高めた最新の火薬や、一斉に数百発が上がるワイドスターマインの輝度は強烈です。
ISO100、F11まで絞っても、露出オーバー(白飛び)してしまうことが多々あります。
さらに、1枚の写真に複数の花火を入れたい場合、露光時間は長くなります。
例えば、適正露出が2秒の花火を3発重ねるには、単純計算で6秒シャッターを開ける必要があります。
しかし6秒開けると、光量は3倍になり、完全に白飛びします。
そこで、入ってくる光の量を物理的に減らす「NDフィルター(中性密度フィルター)」が必要になります。
- ND4(透過率25%):光量を1/4(2段分)に減らす。標準的な花火大会向け。
- ND8(透過率12.5%):光量を1/8(3段分)に減らす。至近距離での撮影や、尺玉クラスの明るい花火向け。
計算式で言えば、ND4を装着することで、白飛びせずにシャッターを開けていられる時間が「4倍」に伸びるということです。
これにより、より多くの花火を1枚の写真に盛り込むことが可能になり、豪華絢爛な作品が生まれます。
3. 場所取りの気象学|風向きと煙の流体力学

どんなに高い機材を持っていても、「風下(かざしも)」に陣取った時点でその日は終了です。煙に巻かれて花火は見えず、写真は真っ白な霧しか写りません。機材選びよりも先に、場所選び(風読み)に全精力を注いでください。
風下(Leeward)が「死に場所」である理由|煙の滞留と拡散
花火は大量の火薬を燃焼させるため、爆発のたびに大量の煙(スモーク)が発生します。
この煙は、風に乗って流れます。
もしあなたが、打ち上げ場所に対して「風下」にカメラを構えてしまった場合、どうなるでしょうか。
1発目の花火の煙が、2発目の花火の手前に漂ってきます。
さらに3発目、4発目と続くにつれて、あなたの目の前は濃い煙のスクリーンで覆われます。
光は煙で散乱・拡散し(チンダル現象)、花火の色は濁り、輪郭はボヤけ、背景の夜空は白く発光してしまいます。
これをレタッチで救済することは不可能です。
「風上(かざかみ)」、もしくは「横風」を受ける位置を確保することが、クリアな写真を撮るための絶対条件です。
SCWとGPV気象予報の活用|3時間後の風速を読む
では、どうやって風向きを知るのか。
天気予報アプリの「風速」は地上の広域予報であり、局所的な花火会場の風とは異なる場合があります。
プロの写真家が愛用するのは、スーパーコンピュータによる気象予測モデルを見れるサイト「SCW(Super Computer Weather)」や「GPV気象予報」です。
これらのサイトでは、1時間ごとの風の動きを地図上で視覚的に確認できます。
「打ち上げ開始時刻(例えば19:30)に、会場周辺でどちらの方角から風が吹くか」をピンポイントで予測します。
理想は風速2m/s〜5m/s程度の風が、横方向または斜め後ろから吹いていることです。
無風(0m/s)も煙がその場に滞留してしまうため、実は悪条件です。
観覧場所の選び方|マナーと「三脚禁止エリア」の回避
風向きが分かったら、Googleマップで具体的な撮影ポイントを探します。
しかし、現地に行ってみると「関係者以外立入禁止」だったり、木が生い茂って視界が遮られていたりすることがあります。
また、近年の主要な花火大会では、混雑緩和のために「有料観覧席」が設けられ、そのエリア内では三脚の使用が一律禁止されているケースが増えています。
三脚を立てて良いのは、一般開放されている後方のエリアや、カメラマン専用チケットのエリアに限られます。
通路や点字ブロックの上、私有地に三脚を立てるのは論外のマナー違反です。
事前に公式サイトの「会場マップ」と「注意事項」を熟読し、合法かつ安全に三脚を立てられる場所を確保するために、昼過ぎには現地入りする覚悟が必要です。
4. 露出の黄金比|ISO100・F11の方程式
花火撮影の設定は「ISO100・F11」が基本公式です。これは経験則ではなく、デジタルセンサーの特性(ダイナミックレンジ)とレンズの特性(回折限界)から導き出される物理的な最適解です。
ISO100(ベース感度)によるダイナミックレンジの最大化
デジタルカメラのセンサーには、「ベース感度(基準感度)」というものがあります。
多くのカメラではISO100(ニコンの一部機種ではISO64)です。
このベース感度で撮影した時、センサーは最も広い「ダイナミックレンジ(再現できる明暗の幅)」を発揮し、S/N比(信号対ノイズ比)も最高になります。
花火は、中心部の強烈な輝きから、消え際の儚い光まで、極めて広い明暗差を持つ被写体です。
ISO感度を上げると(例えばISO400や800)、電気的な増幅によってノイズが増えるだけでなく、ダイナミックレンジが狭くなり、花火の明るい部分(ハイライト)がすぐに白飛びして粘りがなくなります。
花火の階調を豊かに残すためには、ISOは常に最低感度に設定するのが鉄則です。
F11〜F16の深い被写界深度と光条のコントロール
絞り(F値)は、露出(明るさ)の調整だけでなく、光の「質」をコントロールする役割があります。
F11〜F16程度まで絞り込む理由は2つあります。
- 被写界深度の確保:花火は立体的で、手前や奥に広がって開花します。また、地上の風景(ビルや橋)にもピントを合わせる必要があります。深く絞ることで、画面全体にピントが合ったパンフォーカス状態を作ります。
- 光線の鋭利化:絞り込むことで、点光源の周りにウニのようなトゲ(光条)が出やすくなり、花火の光跡がシャープで鮮明になります。
開放付近(F2.8やF4)で撮ると、光跡が太くなり、ボヤッとした締まりのない描写になります。
「線」を細く鋭く描くために、絞り込むのです。
回折現象(小絞りボケ)の限界点と解像度のバランス
「だったらF22やF32まで絞ればもっと綺麗になるのでは?」と考えるかもしれません。
しかし、光には「回折(Diffraction)」という性質があります。
絞りの穴が極端に小さくなると、光の波が穴の縁で曲がり込み、センサー上での結像が滲んでしまう現象です。
これを「小絞りボケ」と呼びます。
高画素機になればなるほどこの影響は顕著で、一般的にF16を超えたあたりから解像度が低下し始めます。
シャープネスと被写界深度のバランスが取れる限界点が、フルサイズ機で概ねF11〜F16なのです。
それ以上光を減らしたい場合は、F値を上げるのではなく、NDフィルターを使って減光するのが正しい工学的アプローチです。
5. ピント合わせ(フォーカス)の幾何学

花火が始まってからピントを合わせようとしても手遅れです。暗闇ではAFが迷い続け、シャッターチャンスを逃します。明るいうちにピントを固定する「置きピン」が必須技術です。
無限遠(∞)の嘘|温度変化による焦点ズレの物理
「風景だからピントリングを一番端の無限遠(∞)マークに合わせればOK」と思っているなら、それは大きな間違いです。
多くのレンズにおいて、無限遠マークの位置は厳密な無限遠ではありません。
また、レンズの鏡筒(金属やプラスチック)は、気温の変化によって熱膨張・収縮します。
昼間の暑い時間に合わせた無限遠が、夜になって冷え込むとズレてしまうのです。
特に高性能な望遠レンズほど、この「温度による焦点移動」の影響を受けやすい設計になっています(オーバーインフ)。
したがって、物理的なマークを信用せず、その場の実像で合わせる必要があります。
明るい時間帯の「置きピン」とパーマセルテープ固定
最も確実な方法は、まだ明るさが残っている夕方のうちに、打ち上げ筒付近の建物や、遠くの鉄塔などにAF(オートフォーカス)を使ってピントを合わせてしまうことです。
一度ピントが合ったら、スイッチを「MF(マニュアルフォーカス)」に切り替えます。
これでピント位置は固定されます。
しかし、撮影中にズームリングを触ったり、誤ってピントリングに触れてしまうとズレてしまいます。
そこで、あらかじめ「パーマセルテープ(糊残りのしないマスキングテープ)」を持参し、ピントリングと鏡筒を物理的に貼り付けて固定してしまいます。
これで安心して一晩中撮影に没頭できます。
ライブビュー拡大による厳密な点光源補正テクニック
もし現地到着が夜になってしまった場合は、遠くの街灯やビルの航空障害灯(赤い点滅光)を探します。
ライブビューにして、その光を拡大表示します。
ピントリングを慎重に回し、光のボケが最も小さくなり、滲みのない「点」になった瞬間を探ります。
最近のミラーレスカメラには「星空AF」などの機能が付いている場合もありますが、基本はマニュアルでの拡大確認が最も信頼できます。
ピントが甘いと、花火の線が太くなり、キレのない眠たい写真になってしまうため、この工程は妥協しないでください。
6. 構図の美学|「記録」を「作品」に昇華させる
黒背景に花火だけが写っている写真は、どこの花火大会か分からない「記録写真」です。地上の風景や観客を入れることで、場所の特定性とスケール感が生まれ、初めて「作品」になります。
副題(Foreground)の役割|比較対象によるスケール感の演出
巨大な花火のスケール感を表現するためには、比較対象となるもの(副題)が必要です。
例えば、地上のビル群、橋、お城、神社、あるいは手前の観客のシルエットなどです。
これらを画面の下3分の1程度に入れることで、花火がいかに高く、いかに大きいかが伝わります。
「主役は花火、脇役は風景」という関係性を意識して構図を作ります。
ただし、副題が明るすぎるとそちらに目が行ってしまうため、ハーフNDフィルターを使って地上の露出を抑えたり、後から現像で調整する工夫も必要です。
リフレクション(水鏡)の光学|入射角と反射角の対称性
花火撮影における最高のご馳走は「水面反射(リフレクション)」です。
諏訪湖、琵琶湖、海上花火などでは、水面が鏡の役割を果たし、花火の光を反射します。
光学的に、入射角と反射角は等しくなります。
水面が穏やかであれば、完全な線対称(シンメトリー)の構図を作ることができ、光量は実質2倍、華やかさは4倍になります。
リフレクションを狙う場合は、できるだけ水面に近い低い位置(ローアングル)にカメラをセットすると、映り込みの面積が広くなり、より迫力のある画になります。
縦構図と横構図の使い分け|打ち上げ高さとトラジェクトリ
構図の向きも重要です。
- 縦構図:高く打ち上がる「尺玉」や、打ち上げ筒から開花位置までをすべて入れたい場合に適しています。空の広がりを強調でき、ポスターのようなデザイン的な配置が可能です。
- 横構図:ワイドスターマインのように、横幅数百メートルに渡って展開される花火に適しています。また、地上の風景(夜景)を広く取り入れたい場合も横構図が安定します。
初心者は横構図で撮りがちですが、大きな花火は画面の上に見切れてしまうことが多いです。
「L型ブラケット」を使用して、素早く縦横を切り替えられるようにしておくと、プログラムに合わせて柔軟に対応できます。
7. 高度な撮影技術|多重露光と露光間ズーム
| 技法 | 必須アイテム | 難易度 | 効果 |
|---|---|---|---|
| 黒うちわ | 黒い厚紙 | 高 | アナログ多重露光 |
| 比較明合成 | Photoshop | 中 | デジタル多重露光 |
| 露光間ズーム | ズームレンズ | 高 | 抽象アート化 |
黒うちわ(Black Card)によるマニュアル多重露光の原理
一枚の写真に、異なるタイミングで上がった花火を3つ配置したい。
しかし、シャッターを開けっ放しにして待っていると、背景の空や街明かりが露光オーバーになって真っ白になります。
そこで使われるのが、古くから伝わる伝統芸能「黒うちわ」テクニックです。
レンズの前を、反射しない黒い紙(つや消しの黒塗装をしたうちわ等)で覆うことで、シャッター幕が開いていても、光を物理的に遮断します。
手順:
- バルブ開放(シャッターOPEN)。
- 1発目の花火が開いたら、レンズの前からうちわを退ける(露光)。
- 花火が消えたら、即座にうちわでレンズを覆う(遮光)。この間、カメラのシャッターは開いたまま。
- 別の場所に2発目が上がったら、またうちわを退ける(露光)。
- 構図が完成したら、うちわで覆ってからシャッターを閉じる。
これにより、背景の露出時間は「花火が光っている時間」の合計だけになり、白飛びを防ぎつつ、複数の花火を合成できます。
非常にアナログですが、現場で完成形を作れる職人芸です。
比較明合成(Lighten Composite)のアルゴリズム解説
デジタル時代のアプローチが「比較明合成」です。
これは、三脚を固定したまま複数の写真を撮影し、後からPhotoshopなどのソフトで合成する方法です。
レイヤーの描画モードを「比較(明)」に設定すると、下にあるレイヤーと比較して「より明るいピクセル」だけが表示されます。
つまり、暗い夜空の部分は無視され、明るい花火の光跡だけが透過して重なっていきます。
「黒うちわ」に比べて失敗がなく、後から「この花火は色が被っているから除外しよう」といった編集(取捨選択)が可能です。
また、事前にトワイライトタイム(日没直後の青い空)に美しい背景写真を撮っておき、そこに夜撮影した花火を合成するという、時間の概念を超えた作品作りも可能です。
露光間ズーム(Zoom Burst)|放射状の光跡を描くアート
シャッターが開いている数秒間の間に、手動でズームリングを回すテクニックです。
例えば、広角側から望遠側にズームすると、光の点は中心から放射状に伸びる線となります。
これを花火に応用すると、まるで宇宙空間のワープシーンのような、あるいは巨大な光の矢が降り注ぐような、ダイナミックで抽象的な表現が可能になります。
花火の芯がしっかりしているタイミングで行うのがコツですが、成功率は低いハイリスク・ハイリターンな技法です。
「普通の花火写真に飽きた」という上級者向けの遊びです。
8. トラブルシューティングと安全管理
夏の天気は変わりやすいです。ゲリラ豪雨で数百万円の機材を一瞬で失うカメラマンが毎年います。雨対策は「念のため」ではなく「必ず起こるもの」として準備してください。
白飛び(Clip)の回避|ヒストグラム確認とND調整
撮影した画像を液晶画面で確認する際、全体の雰囲気だけで満足してはいけません。
必ず「ヒストグラム」を表示させるか、「白飛び警告表示(ハイライト警告)」を確認してください。
花火の中心部や光跡がチカチカと点滅していたら、データが欠損しています(クリッピング)。
色情報が残っていれば現像で救えますが、完全に飛んで真っ白になったデータは二度と戻りません。
白飛びしている場合は、F値をさらに絞るか、NDフィルターを濃いものに変更してください。
突然のゲリラ豪雨対策|電子機器の水没リスク管理
花火大会は夏に行われるため、夕立やゲリラ豪雨のリスクと隣り合わせです。
撮影中にポツリと来たら、数秒後には土砂降りになると思ってください。
機材を守るための「大型のゴミ袋(45L以上)」を必ずポケットに入れておきましょう。
雨が降ったら、カメラごと三脚に被せてしまいます。
また、レインカバーを用意しておくのも良いでしょう。
もし濡れてしまった場合は、即座にバッテリーを抜き、通電させないことが鉄則です。
水分を拭き取り、帰宅後は防湿庫や乾燥剤を入れたボックスで数日間完全に乾燥させてください。
帰宅困難対策|交通渋滞の回避と事前の撤収計画
数十万人が集まる花火大会の帰路は、地獄のような混雑になります。
最寄り駅への入場規制で数時間待ち、シャトルバスは来ない、駐車場からは出られない。
これを避ける戦略は2つです。
- フィナーレを捨てて脱出する:最も盛り上がる最後のスターマインを駅に向かって歩きながら背中で聞き、混雑が始まる前に電車に乗る。写真よりも快適さを取る選択です。
- 残留して余韻に浸る:終わった後も1時間ほど現地に留まり、撮影データの確認をしたり、軽い夜食をとったりして時間を潰す。群衆が掃けてからゆっくり帰る。精神的に楽なのはこちらです。
最も疲弊するのは「皆と同じタイミングで動き出し、人波に揉まれること」です。
事前の撤収計画(エスケープルート)も含めて、花火撮影の一部です。
9. まとめ|花火撮影のチェックリスト
最後に、現場で焦らないためのチェックリストをまとめました。スクリーンショットを撮って保存しておくと、当日のパニックを防げます。
出発前の機材最終確認リスト
- □ カメラ&レンズ(広角と望遠)
- □ 三脚(クイックシューを忘れていませんか?)
- □ レリーズ(予備電池も確認)
- □ NDフィルター(ND4・ND8)
- □ パーマセルテープ(ピント固定用)
- □ 黒うちわ(手作りまたは黒い厚紙)
- □ ヘッドライト(赤色LED推奨)
- □ 雨具(ゴミ袋・折りたたみ傘)
- □ 虫除け・折りたたみ椅子
- □ SDカードとバッテリー(空き容量と充電は十分か?)
現場での設定フローチャート
- 場所確保:風上・少し斜め・三脚OKな場所。
- 機材セット:三脚を水平に設置、手ブレ補正OFF、長秒ノイズ低減OFF。
- ピント合わせ:明るいうちに遠くの建物でAF → MFに切り替え → テープで固定。
- テスト撮影:ISO100、F11、バルブ。
- 本番:花火に合わせてレリーズON/OFF。白飛びチェック → ND装着。
日本三大花火の特性と攻略難易度
- 秋田・大曲の花火:最高峰の競技大会。技術的な円の美しさが審査されるため、望遠で一発一発を丁寧に撮る技術が求められます。難易度:高。
- 茨城・土浦全国花火競技大会:10月に開催されるため空気が澄んでおり、発色が綺麗に出ます。スターマインの連射量が凄まじいため、白飛び対策(ND8以上)が必須。難易度:中。
- 新潟・長岡まつり大花火大会:復興祈願のフェニックスは全長2kmに及びます。超広角レンズか魚眼レンズがないと収まりません。構図力が試されます。難易度:高。
花火撮影は、自然との対話であり、光との格闘です。
思い通りにいかないことの方が多いかもしれません。
しかし、計算通りに風が流れ、完璧なタイミングでシャッターを切り、夜空に描かれた光のアートが背面液晶に浮かび上がった瞬間の感動は、何物にも代えがたいものがあります。
「記録」ではなく「記憶」に残る一枚を。
今年の夏は、この教科書を武器に、夜空という広大なキャンバスにあなただけの作品を描いてみてください。

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