【NDフィルターの教科書】「流し撮り」も「滝の絹」も自由自在|選び方と番号の意味を完全解説

NDフィルター

「滝を糸のように白く滑らかに撮りたい」
「真昼間だけど、背景をボカしてF1.8で撮りたい」
「花火や車のライトの軌跡(レーザービーム)を撮りたい」

そんな時、カメラの設定だけではどうにもならない壁にぶつかります。
「明るすぎる」のです。

シャッタースピードを遅くしたいのに、これ以上遅くすると真っ白(白飛び)になってしまう。
F値を小さくしたいのに、明るすぎてシャッターが切れない。

そんな悩みを一発で解決する魔法のアイテム。
それが「NDフィルター(Natural Density Filter)」です。

この記事では、カメラの「サングラス」とも呼ばれるNDフィルターの基礎知識から、数字(ND8, ND400, ND1000)の読み方、可変式(バリアブル)と固定式の違い、そしてプロが実践している「劇的な長秒露光テクニック」まで、全角1万文字を超えるボリュームで徹底解説します。
これを読めば、あなたの写真は「記録」から「アート」へと進化します。

この記事でわかること

  • 結論:最初は「可変ND(ND2-32)」か「ND8 + ND16」がおすすめ
  • 基本:NDフィルターは「色を変えずに光量だけ落とす」サングラス
  • 応用:動画撮影では必須のアイテム
目次

NDフィルターとは何か?|カメラのサングラス

NDフィルター

NDは「Neutral Density(ニュートラル・デンシティ)」の略です。
直訳すると「中立な濃度」。
つまり、「色は変えずに、光の量だけを減らすフィルター」のことです。

なぜわざわざ暗くするのか?

カメラは「光を取り込む道具」なのに、なぜ光を捨てる必要があるのでしょうか?
それは「シャッタースピード」と「絞り」を自由に操るためです。

真夏のビーチ(直射日光下)を想像してください。
F1.4の単焦点レンズでポートレートを撮ろうとすると、ISO100にしてもシャッタースピードが1/8000秒を超えてしまい、露出オーバー(真っ白)になることがあります。
ここでNDフィルターを使えば、光を強制的に減らし、F1.4のまま適正露出で撮ることができます。

数字の意味|ND4, ND8, ND1000…

NDフィルターには必ず数字が書いてあります。
この数字は「光量を何分の1にするか」を表しています。

基本のラインナップ

  • ND2:光量1/2(1段分暗くなる)
  • ND4:光量1/4(2段分暗くなる)
  • ND8:光量1/8(3段分暗くなる)
  • ND16:光量1/16(4段分暗くなる)
  • ND400:光量1/400(約8.5段分)→ 日食撮影などに使用
  • ND1000:光量1/1000(10段分)→ 昼間を夜にするレベル

段数(EV)の計算方法

「3段分暗くなる」というのは、以下の設定変更と同じ意味です。

  • シャッタースピード:1/1000秒 → 1/125秒(3段階遅くできる)
  • 絞り(F値):F11 → F4(3段階開けられる)

「ND8」をつければ、シャッタースピードを8倍長くできます。
「ND1000」をつければ、1000倍長くできます(1/1000秒のシーンなら1秒露光が可能)。

シーン別|どの番号を選べばいい?

「種類が多すぎて分からない!」という方のために、シーン別の正解教えます。

1. 滝や川の流れを糸のように撮りたい(ND8 〜 ND64)

水の流れを滑らかにするには、シャッタースピードを「0.5秒〜2秒」くらいにする必要があります。
晴れた日の森の中なら、ND8かND16があれば達成できます。
少し日が陰っている場所なら、PLフィルター(偏光フィルター)でも代用可能です(PLフィルターはND2〜4くらいの減光効果があります)。

【応用編】滝の「白糸」を作るシャッタースピードの正解

滝を撮る時、シャッタースピードを何秒にするかで表現が全く変わります。
プロは現場で以下のように使い分けています。

1/2秒〜1秒(力強さを残す)

完全に真っ白な線にはならず、まだ水の質感が残ります。
「激流」や「豪快さ」を表現したい時は、長すぎないシャッタースピードを選びます。
ND8やND16がちょうど良い領域です。

4秒〜8秒(幻想的な絹糸)

完全に水流が繋がり、絹の糸のようになります。
現実感を消し去り、絵画のような世界を作りたいならこの設定です。
ただし、これ以上長くすると、今度は水流が霧のように消えてしまい、迫力がなくなります。
ND64やND400が必要になります。

白飛び注意報(ヒストグラムを見ろ)

滝撮影の最大の敵は「白飛び」です。
白い水流は、カメラの露出計が「明るすぎる」と誤解しやすい被写体です。
必ずヒストグラムを確認し、右端が壁に張り付いていないかチェックしてください。
もし張り付いていたら、シャッタースピードを速くするか、ISO感度を下げてください。

2. 昼間の海を「雲海」のように消したい(ND500 〜 ND1000)

波のうねりを完全に消滅させ、鏡のような海面にするには、「30秒〜60秒」の露光が必要です。
日中に30秒もシャッターを開けるには、ND1000クラスの強力なフィルターが必須です。
これを「長時間露光(Long Exposure)フォトグラフィー」と呼び、幻想的なファインアートの世界です。

3. 動画撮影で背景をボカしたい(ND2 〜 ND64)

動画には「シャッタースピードはフレームレートの2倍(180度シャッター)」という鉄則があります。
・24fpsで撮るなら1/50秒
・60fpsで撮るなら1/120秒
この遅いシャッタースピードを維持したまま、外でF2.8などで撮るには、NDフィルターがないと不可能です。
動画勢にとってNDフィルターは、SDカードと同じくらい「忘れてはいけない必需品」です。

【動画編】なぜ「パラパラ漫画」になってしまうのか?

動画初心者が最初に陥る罠。
それが「シャッタースピードが速すぎて、動きがカクカクする現象」です。

180度シャッターの法則とは

人間の目は、動いているものを見ると「残像(モーションブラー)」を感じます。
これがあるから映像が滑らかに見えるのです。
しかし、晴天の屋外でシャッタースピードが1/1000秒などになってしまうと、この残像が消えます。
すると、一コマ一コマが止まって見えるため、パラパラ漫画のような不自然な動き(ストロボ効果)になります。

NDフィルターで「残像」を作る

これを防ぐために、あえてシャッタースピードを遅く(1/50秒や1/60秒)する必要があります。
でも、昼間にそんな設定にしたら真っ白になりますよね?
だからNDフィルターで光を落とすのです。
YouTuberやVloggerが、レンズの先に何か黒いものを付けているのはこのためです。

4. 花火撮影(ND4 〜 ND8)

花火は意外と明るいです。
ISO100、F11で撮っても、数秒開けると白飛びすることがあります。
ND4くらいを噛ませることで、色鮮やかなまま長い光跡を写せます。

フィルターの種類|円形・角型・可変式

NDフィルター

1. 円形フィルター(ねじ込み式)

最も一般的です。
レンズの先端(フィルター径)に合わせて購入し、クルクル回して装着します。
メリット:光漏れがない、コンパクト。
デメリット:レンズごとに径が違うと買い直し(ステップアップリングで解決可能)。

2. 角型フィルター(スクエア)

四角いガラスの板です。専用のホルダーをレンズに付けて、そこに差し込みます。
風景写真家の標準装備です。
メリット:ハーフND(上半分だけ暗くする)が使える。重ね付けが容易。
デメリット:デカい、高い、装備が大掛かり。

3. 可変式NDフィルター(Variable ND)

2枚の偏光ガラスを重ねてあり、回すことで濃度をリニアに変えられる(ND2〜ND400など)便利アイテムです。
動画撮影ではこれが主流です。
メリット:1枚で済む。いちいち付け替えなくていい。
デメリット:【重要】安物を使うと「X状ムラ(クロスムラ)」が出る。色が黄色くなる。

ステップアップリングのススメ|節約の裏技

レンズが3本あって、フィルター径が「58mm」「67mm」「77mm」だったとします。
それぞれに高いNDフィルターを買うのは破産します。

「大は小を兼ねる」作戦

一番大きい「77mm」のNDフィルターを1枚買います。
そして、「58mm→77mm」「67mm→77mm」に変換する「ステップアップリング」(数百円)を買います。
これで1枚のフィルターを全レンズで使い回せます。
見た目はちょっと頭でっかちになりますが、お財布には最強に優しいです。

マグネット式フィルターの革命

最近のトレンドは「磁石(マグネット)」です。
ねじ込む必要がなく、パチっと1秒で付きます。
特に動画撮影や、刻一刻と光が変わる夕暮れ時(マジックアワー)には、ねじ込んでいる時間が惜しいので、マグネット式が圧倒的に有利です。
Kase(カセ)、Mavri(マブリ)、H&Yなどのメーカーが出しています。

【比較】円形 vs 角型 vs マグネット|どれを買うべき?

タイプ メリット デメリット おすすめユーザー
円形
(ねじ込み)
・安い
・光漏れがない
・コンパクト
・着脱が遅い
・ケラレやすい
初心者、スナップ、山岳写真(荷物を減らしたい)
角型
(ホルダー)
・ハーフNDが使える
・重ね付けが楽
・画質が良い
・高い(数万円〜)
・デカい
・ガラスが割れやすい
ガチの風景写真家、海景撮影
マグネット
(磁石)
・着脱が爆速
・薄い
・専用キャップが必要
・衝撃で外れるリスク
動画クリエイター、せっかちな人

プロの裏技|黒カード(ブラックカード)テクニック

「ハーフNDフィルターが高くて買えない!」
そんなあなたのための、0円でできる裏技です。

やり方

1. 黒い紙(画用紙など)を用意します。
2. 長時間露光(例えば10秒)をスタートします。
3. レンズの前で、空の部分(明るい部分)だけを黒い紙で隠します。
4. そのまま紙を小刻みに上下に揺らします(境界線をボカすため)。
5. 露光時間の半分(例えば5秒)経ったら、紙を退けます。

こうすることで、「空は5秒だけ露光」「地面は10秒露光」という状態を1枚の写真の中で作り出せます。
ハーフNDフィルターと同じ効果を、物理的なアナログ作業で再現するのです。
原始的ですが、慣れると非常にコントロールしやすく、今でも多くの風景写真家が愛用しているテクニックです。

買うならここ!おすすめメーカー

NDフィルター

NDフィルターは「ガラスの質」が命です。
悪いガラスを通すと、解像度が落ち、色が変になります(カラーキャスト)。
少し高くても、定評のあるメーカーを選びましょう。

1. Kenko(ケンコー)/ Marumi(マルミ)

日本の二大巨頭。
Kenkoの「PRO1D」シリーズや、Marumiの「EXUS」シリーズは鉄板です。
品質、価格、入手性のバランスが世界一です。
とりあえず迷ったらここのを買っておけば間違いありません。

2. NiSi(ニシ)/ KANI(カニ)

近年、風景写真界を席巻している中華系ハイエンドメーカーです。
「中華=安かろう悪かろう」の時代は終わりました。
特にNiSiの角型フィルターや「TRUE COLOR」可変NDは、色の偏りがほとんどないとプロから絶賛されています。

3. K&F Concept

コスパ最強枠。
Amazonでよく見かけます。
昔は画質劣化が指摘されていましたが、最近の「NANO-X」シリーズなどは驚くほど高性能です。
「NDフィルターを試しに使ってみたい」という入門用には最適です。

実践!NDフィルターを使った撮影手順

NDフィルター

1. 三脚を立てる

スローシャッターになるので、手持ち撮影は不可能です。
手ブレ補正がいくらすごくても、1秒以上の露光は三脚必須です。

2. 構図とピントを決める

【重要】ND1000などの濃いフィルターを付ける前に、ピントを合わせてください。
付けてからだと真っ暗でAFが効きませんし、ファインダーも見えません。
ピントを合わせたら、MF(マニュアルフォーカス)に切り替えて、ピント位置を固定します。

3. アイピースシャッターを閉じる(一眼レフの場合)

ファインダーから逆流した光がセンサーに入り込むのを防ぐため、ファインダーに蓋をします。
ミラーレスの場合は構造上あまり気にしなくてOKです。

4. フィルターを装着して撮影

慎重にねじ込みます。
ズレて付けると、外れなくなって泣くことになります(フィルターレンチを常備しましょう)。

5. 露出計算アプリを使う

「NDなしで1/125秒だったから、ND1000をつけると…えーと…」
暗算するのは時間の無駄です。
スマホアプリ(「Lee Filters」や「NiSi Filters」など)であっという間に計算できます。

ハーフNDフィルター(GND)の世界

風景写真の最終兵器です。
「空は明るいけど、地面は暗い」というシーン、よくありますよね?
普通に撮ると空が白飛びするか、地面が黒つぶれします。

そこで「上半分だけ黒くなっている」フィルターを使います。
空の明るさだけを抑え、地面との明暗差を埋める。
これが合成なしでドラマチックな風景を撮るプロの秘密です。

ソフトGND vs ハードGND

  • ソフト:グラデーションが緩やか。山や建物など、地平線が凸凹している場所用。
  • ハード:クッキリ分かれている。水平線が見える海用。

注意点|NDフィルターの弱点

1. 色被り(カラーキャスト)

濃いNDフィルターを使うと、写真全体が黄色くなったり、赤紫色になったりすることがあります。
RAWで撮っておけばホワイトバランスで修正できますが、限度があります。
なるべく色被りの少ない(ニュートラルな)高いフィルターを買うのが、結果的に時間の節約になります。

2. ケラレ(Vignetting)

広角レンズに分厚いフィルターを付けると、四隅にフィルターの枠が写り込んで黒くなります。
「薄枠」と書かれたタイプを選びましょう。
また、ステップアップリングを重ねすぎてもケラレの原因になります。

3. X状ムラ(可変NDの宿命)

可変NDフィルターで、減光効果をMAX付近まで回すと、画面に巨大な「X」の形の影が出現します。
これは構造上の限界です。
「MAXまでは使わない」か、「Xムラ防止機構付き」の高いモデルを買いましょう。

【深掘り】可変NDフィルターの物理学

なぜ回すだけで暗くなるのでしょうか?
中には2枚の「PLフィルター(偏光膜)」が入っています。
2枚のブラインドを重ねているところを想像してください。
・ブラインドの向きが同じなら、光は通ります(最も明るい状態=ND2)。
・ブラインドの向きを90度ずらすと、光は完全に遮断されます(最も暗い状態=ND400など)。

X状ムラの正体
偏光膜の角度が直交に近づくと、光の干渉縞(モアレのようなもの)が発生します。
これが「X状ムラ」です。
安い可変NDは、この限界点(ハードストップ)がなく、360度回せてしまうため、知らずにXムラ領域に入ってしまうことがあります。
良心的なメーカー品には「これ以上回すと危険」というロック機構(ハードストップ)が付いています。

特殊な用途|太陽を撮る(日食撮影)

「ND1000があれば太陽も撮れる?」
答えは「絶対にNO」です。
ND1000でも、太陽光は強すぎてセンサーを焼きます(最悪、ファインダー越しに見ているあなたの網膜を焼きます)。

ND100000(10万)の世界

日食撮影には「ND100000」クラスの、専用の「ソーラーフィルター」が必要です。
これは光を1/100000にします。
通常のNDフィルターとは全く別物と考えてください。
「部分日食があるからNDフィルターを買おう」と思っている方は、必ず「日食専用」と書かれたものを買ってください。
失明のリスクがあるため、代用は厳禁です。

スマホにもNDフィルター?|iPhone撮影の裏技

「スマホで十分」と思っている人こそ、実はNDフィルターが必要です。
なぜなら、スマホのレンズは「絞り」が固定(F1.8など)だからです。

F値を大きくできない=明るさを調整できない
晴れた日にシャッタースピードを落として「川の流れ」を撮ろうとしても、スマホアプリでSSを遅くすると画面が真っ白になります。
絞れないからです。
そこで、クリップ式のNDフィルターをスマホのレンズに挟みます。
これだけで、iPhoneでも一眼レフ顔負けの「絹のような滝」や「滑らかなシネマティック動画」が撮れるようになります。
最近はMagSafe(磁石)で付くタイプも登場しており、スマホ動画クリエイターの必須アイテムになっています。

究極のDIY|溶接用ガラス(ウェルディンググラス)

「お金がない!でもND10000みたいな超長秒露光がしたい!」
そんな勇者のための、禁断のDIYです。

ホームセンターで売っている「溶接用の遮光プレート」を買います。
数百円です。
これをレンズの前にテープで貼り付けます。
驚くほど減光します(太陽すら直視できるレベルなので)。

デメリット
写真が強烈な「緑色」になります。
ホワイトバランス修正でも戻らないレベルです。
しかし、「モノクロ写真」にする前提なら関係ありません。
数百円で「昼間の街から人が消える写真(3分露光など)」が撮れるため、海外の実験好きフォトグラファーの間では密かな人気ジャンルです。

【番外編】NDフィルターを買わずに実現する「デジタルND」

「やっぱりフィルターを持ち歩くのは面倒くさい」
そんなあなたに、パソコンの力で解決する方法を教えます。

Photoshopの「平均値スタック」

1. 三脚でカメラを固定します。
2. NDなしの普通のシャッタースピード(例えば1/125秒)で、写真を100枚連写します。
3. Photoshopで「レイヤーをスタック(積み重ね)」し、描画モードを「平均値(Mean)」にします。

するとあら不思議。
100枚分の時間の流れが平均化され、ND1000で撮ったかのような「滑らかな水面」や「消えた人混み」が再現されます。
PCの処理能力は必要ですが、理論上は無限に暗くできます。
Sonyの一部のカメラには、この処理をカメラ内でやってくれるアプリ(スムースリフレクション)もありました。

映画の世界とNDフィルター

映画のロケ現場に行くと、巨大なマットボックス(四角いフード)の中に、必ずNDフィルターが入っています。
なぜなら、映画用カメラは「シャッタースピードを変えられない(1/50秒固定)」ことがほとんどだからです。

「真夏の砂漠のシーンでも、背景をボカして主人公の孤独を表現したい」
そんな時、NDフィルターがなければ、F22まで絞り込むしかなくなり、パンフォーカス(全部ピントが合う)になってしまい、映画的な情緒が死んでしまいます。
私たちが映画を見て「なんかいい雰囲気だな」と感じる背景には、必ずNDフィルターの仕事があるのです。

フィルターは「資産」になる

レンズと同じで、良いガラスは値段が落ちません。
安物のプラスチック製フィルターは、傷がついたらゴミ箱行きですが、KenkoやKaniやNisiの上位モデルは、中古市場でも高値で取引されています。
「合わなかったら売ればいい」という気持ちで、最初から最高の1枚を買うのが、結果的に一番安上がり(安物買いの銭失いにならない)な方法です。

未来の技術|電子式可変NDフィルター

Sonyの業務用シネマカメラ(FX9, FX6など)には、驚くべき機能が搭載されています。
それが「電子式可変NDフィルター」です。
ガラスを回すのではなく、液晶に電圧をかけることで、濃度を1/4から1/128までシームレスに変えることができます。
しかも色被りが理論上ゼロです。
まだ一眼ミラーレスには降りてきていませんが、近い将来、物理的なガラスフィルターを持ち歩かなくて済む時代が来るかもしれません。

空の上の必須アイテム|ドローン撮影とND

DJIのMavicやMiniシリーズなどのドローンも、実はNDフィルターが必須です。
多くのドローンカメラは絞りがF1.7やF2.8で固定されています。
晴天の空の上は地上より遥かに明るいため、シャッタースピードが1/4000秒とかになり、映像がパラパラ漫画(カクカク)になります。
「ドローン映像がなんか安っぽい」と感じる原因の9割はこれです。
滑らかな飛行感を出すために、ドローン用NDフィルター(とても小さい爪のようなフィルター)を必ず装着しましょう。

トラブルシューティング(FAQ)

Q. フィルターが外れなくなった!

A. 輪ゴムを使ってください
焦って力を入れるほど、歪んで噛み込んでしまいます。
フィルターの枠に太めの輪ゴムを巻き付け、グリップ力を高めてから、手のひら全体で包み込むように優しく回してください。
それでもダメなら、カメラ用品店で売っている「フィルターレンチ」(数百円)を使えば一発です。

Q. 写真がマゼンタ(赤紫)色になる

A. 赤外線被り(IR汚染)です
安いNDフィルターは、可視光線はカットしますが、赤外線(IR)を通してしまうものがあります。
センサーは赤外線を感じ取ってしまい、写真全体が赤っぽくなります。
「IRカット」と明記されている高品質なフィルター(NisiやKaniなど)に買い換えるのが唯一の解決策です。

Q. ピントが合わない

A. フィルターを付ける前に合わせましたか?
ND1000などの濃いフィルターを付けると、カメラのAFセンサーは真っ暗で何も見えません。
必ず「フィルターを付ける前」にAFでピントを合わせ、MF(マニュアル)に切り替えてピント位置を固定してから、フィルターを装着してください。

Q. 最初の一枚、円形と角型どっちがいい?

A. 9割の人には「円形(ねじ込み)」をおすすめします
角型は「カッコいい」ですが、準備が大変すぎて、そのうち持ち出すのが億劫になります。
「写真を撮るために生きている」レベルの風景ガチ勢でない限り、円形の方が機動力があります。
ただし、「ハーフND(空と地上の輝度差を埋める)」を使いたい欲求が少しでもあるなら、最初から角型システム(あるいはマグネット式の角型)に投資するのも賢い選択です。
最近はH&Yなどから、円形フィルターのように手軽に使える角型システムも登場しています。

フィルターの重ね付け(スタッキング)の魔術

「NDフィルターを持っているけど、もっと暗くしたい!」
「反射も消したいし、減光もしたい!」
そんな時は、フィルターを重ねて使うことができます。

CPLフィルター(偏光) + NDフィルター

風景写真の最強コンボです。
・CPLで水面の反射や葉のテカリを取り除く(色が濃くなる)
・NDでシャッター時間を稼ぐ(水流を流す)
これで「真っ青な空」と「絹のような滝」が両立した、パンフレットのような写真が撮れます。

注意点
順番は「レンズ → CPL → ND」が基本ですが、操作性(CPLは回す必要がある)を考えると「レンズ → ND → CPL」の方が楽な場合もあります。
ただし、2枚重ねると枠が厚くなり、広角レンズだと四隅がケラレる(黒くなる)リスクが高まります。

ND8 + ND16 = ND128?

はい、掛け算になります。
光量が 1/8 × 1/16 = 1/128 になります。
ND1000を持っていなくても、手持ちのフィルターを組み合わせることで超長秒露光が可能になります。
ただし、画質は確実に落ちますし、色被りも増幅されるので、緊急用のテクニックと考えましょう。

メンテナンスと寿命|ガラスは生きている

NDフィルターは消耗品ではありませんが、扱いはデリケートです。

海辺での撮影後は「水洗い」

波しぶきを被ったまま放置すると、塩分が結晶化してコーティングを剥がします。
撮影が終わったら、ブロワーで砂を飛ばし、クリーニング液で拭くか、防水仕様なら真水で洗い流しましょう。

落としたら終わりの「ガラス製」

最近の高級フィルターは強化ガラスを使っていますが、それでもコンクリートに落とせば割れます。
特に「付け外し」の瞬間に落とす事故が多発しています。
寒い冬、かじかんだ手でフィルター交換をする時は、必ず低い位置で、下にバッグを置いて行いましょう。

まとめ|見えない時間を写す魔法

写真は「一瞬を切り取るもの」と言われますが、NDフィルターを使えば「時間の流れ」を1枚に閉じ込めることができます。
荒れ狂う波を静寂に変え、雑踏の人混みを消し去り、いつもの風景を異世界に変える。

まずは数千円のND8かND16、あるいは可変NDから始めてみてください。
「世界が止まって見える」感動を、ぜひ味わってほしいと思います。

カメラバッグのポケットに忍ばせたその1枚が、あなたの表現の幅を無限に広げてくれるはずです。

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この記事を書いた人

写真の教科書 編集部では、
カメラ初心者から中級者の方に向けて、
設定・用語・撮影の考え方をわかりやすく整理しています。

「感覚」や「経験」ではなく、
理屈から理解できる解説を大切にしています。

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